優しさ100%

 電力会社による「カラスの巣残置中」の表示を電柱に見つけると、必ず上を見上げる。そして、「ああ、本当に巣を残してもらっているんだな」と思うのは、生活の中で優しさを感じる数少ない場面だった。

 「カラスの巣残置中」
 なんて優しい社会なのだろうと。

 でもある日、気がついてしまったのだ。
 「カラスの巣残置中」の表示は、優しさ100%でできていないことを。

「この電柱の上にカラスの巣があることを我々は既に把握していて、危険でないことも確認済みだから、もう電話をよこさないでくれ」というメッセージも少なからず含まれているだろう。

 日々の中に感じていた優しさがひとつ減ってしまった。

 でも、先日ショッピングセンターで見掛けた光景は、間違いなく優しさ100%でできていた。

 インフォメーションセンターの近くを通りがかった時のこと。

 カウンター前で小さな男の子と、きれいな制服に身を包んだインフォメーションカウンターのお姉さんが向き合って話していた。男の子はおそらく迷子か。お姉さんはメモを取りながら男の子に耳を傾けていた。名前や年齢、誰と一緒に来ていたのかを訊いているのだろう。

 お姉さんは床に膝をついて、男の子と目線の高さを同じにしていた。研修でそう教育されたのかもしれない。でもお姉さんは膝だけでなく脛も、パンプスからのぞく足の甲もすべてべったり床につけた姿勢で男の子と話していた。

 床が汚いなんて全く考えていないのだろう。男の子に対して優しさ100%故、脚と足が地面にべったりなのだろう、とインフォメーションカウンターの前を通りすぎながら、視界の端に移動していくお姉さんを見ながら思った。

 そして、そんな優しさは荒んだ心を持った今の私には1%もないな、とも思ったのだった。

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