足らないネジ

 私はたぶん、成人平均よりも頭のネジが4、5本どころか40本から50本は足らないんじゃないかと思う。

 近所に好きな肉屋さんがある。肉屋だが、ここの肉は高いので決して肉は買わない。いつも揚げ物を電話で注文する。特製コロッケ3つ、メンチカツ3つ、カニクリームコロッケ1つを注文し、11時半に取りに行きます、名前はスギヤマです、と言う。カニクリームコロッケだけ数が少ないのは、一番カロリーが高そうだから控えているからだ。

 揚げ物は15分くらい時間がかかる。以前は店で待っていたのだが、店で待つ15分は意外に長く感じるので電話で注文しておくようになった。

 11時半に店に行くと、注文したものはすべて揚げられて袋詰めされて保温ケースのようなところに納められている。

 すごいな、といつも感心する。

 私だったら、電話予約を承っておいても、11時半までに揚げなきゃと思っていても、11時半までに一旦、そのことが頭の外へ飛び出してしまう。メモをすればいいと思われるかもしれないが、そのメモの存在までもがすっかり頭の外へ飛び出していってしまう。11時半にお客さんが来店して、「電話で注文してあったスギヤマです」と言われて初めて注文があったことを思い出す。そして揚げ始める。

 こんなのでは電話注文の意味がないし、客は立腹し、客は減り、そう時をおかずに店はつぶれるだろう。

 私にはいろいろなものが欠落している。

 7年もピアノを習っていたくせに、楽譜が読めない。ピアノだけではない。小学生の時には吹奏楽部に入っていて、トランペットやトロンボーンまで吹いていたのにも関わらず、だ。

 サッカー部に入っていたのに、レギュラーだった時もあるのに、オフサイドが未だにいまいちわからない。チームメイトには迷惑をかけたと思う。でも決勝戦でゴールを決めて優勝に貢献したこともあるのでチャラにしてほしい。

 電車は行き先だけでなく上り下りすら確認せずに、目に入った電車、またはホームに一番に入ってきた電車に乗ってしまう。知らぬ間に目の前の人に付いて歩いていて、その人の乗る電車に続いて乗ってしまうこともある。ホームで電車が来るのを待っている時に考え事を始めてしまうと、考え事の世界に行ってしまうのか、電車がホームに入ってきたことにすら気付かず、考え事の世界から戻ってきた頃にはもう電車が発車してしまった後なんてこともよくある。しかもそのことにすぐに気付くわけではない。なんで電車がなかなか来ないんだろう、と思って電光掲示板を見てやっと、乗りたかった電車は自分の目の前に停まりそして発車していったことを理解するのだ。やっとのことで電車に乗っても、目的の駅で降り逃し随分と遠くまで行ってしまうのも日常茶飯事だ。

お金を持っていないことをすっかり忘れて買い物してしまうこともある。エコバッグを持っていないことをすっかり忘れて買い物してしまうこともある。ケチってレジ袋なぞは絶対に買わないため、袋詰めのカウンターにある薄いビニール袋5、6袋に商品を詰め、5、6袋を両手にぷらぷらさせながら帰宅する。どっからどう見ても、レジ袋を買うのをケチった人だ。帰宅するまでに絶対に1袋はビニールが裂けて、商品を道路に落とす。

 けっこう大きめのネジも足りていないんだな、ということに気付いたのは旅先に向かう車中だった。

 夜、暗い中出発して30分くらいした頃にコンビニに寄った。翌日の日中、旅先で太陽を燦々と浴びながらアイスを食べたいと思ってアイスを買った。そして車に乗り込んで少しした時に思った。溶けちゃう!私は旅先で太陽を燦々と浴びながらアイスを食べたい、という思いでいっぱいで、アイスが溶けるものだということをすっかり忘れていた。目的地まではまだ2時間以上かかる。保冷バッグも保冷剤も何も持っていないので、どうしよもなかった。夜、ひんやりする車中で、今食べたくもないアイスを食べなくてはいけなくなった。ちなみに、翌日、太陽を燦々と浴びながら食べるアイスは調達できなかった。

ネジの数は自然と後天的に増えることはあるのだろうか。それとも、遺伝子で先天的に決まってしまっているのだろうか。

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