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考える技術1「ずらす法」

これから「考える技術」について書いていきたいと思っています。

これまでたくさんの本の編集をしてきました。結果、おかげさまでベストセラーと呼ばれる本も多数出すことができました。直近5年間で僕が関わった本で10万部以上のヒットになった本は30冊以上になり、どうしてコンスタントにベストセラーを出すことができるのか、最近よく聞かれるようになりました。そこで、そのベースになっている「編集思考」について、これからnoteで書いていきたいと思っています。

こちらの記事にもそのあたりのことを書かせてもらったので、もしよかったら読んでみてください。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65808

https://www.sinkan.jp/news/8883

編集思考は、僕が「考える」のベースにしているものです。凡庸な頭しかもっていない僕なりの武器にしているのが、編集思考のメソッドです。今日はその中のひとつ、「ずらす法」についてお話したいと思います。この方法は、いますでに存在するものに新しい風を吹かせたいときに使える方法で、価値の再発見ができます。たとえば仕事で、自分の担当する商品やサービスが売れなくなってきたときなどにも、ぜひ使ってみてください。

いま大人気の作業服のワークマンも、この「ずらす法」をうまく活用して新しいお客さんをつかんだんだと思います。もともと作業服のブランドとしてポジションを確立していましたが、自社のブランド評価をしたら9割がたから「ダサい」という烙印を押されたそう。そこで、作業服にもアウトドアにも使える服を開発したそうです。自分たちが戦う市場を、作業服だけでなくアウトドアの分野に「ずらした」わけです。といっても、アウトドアには競合が多くいます。ただ、ワークマンが発見したのは「低価格で高機能」という市場でした。これまでのアウトドアブランドの主戦場は「高価格で高機能」。「低価格で高機能」市場は空いていたわけです。アウトドア専用の商品を開発するのではなく、既存の商品の価値の再発見をして、市場を「ずらした」わけです。

僕が関わったケースでも、「ずらす法」を使って、本がベストセラーになったことがあります。
「『のび太』という生きかた」という本がそれです。40万部を越えるベストセラーになっています。著者はドラえもん学を長年研究している富山大学名誉教授の横山泰行さんです。
この本は10年以上前に発売された本なんですが、「ずらす法」を活用して、ここ数年ベストセラーになっています。もともと若手ビジネスパーソンを対象に作られた自己啓発書です。ある日、この本の読者からこんなはがきが届きました。「ぼくは本を読むのが苦手だったけれど、この本だとスラスラ楽しく読めました』(男の子 11歳)「少し漢字が難しかったですが、どんどん読むほど次が気になり、楽しく読めました。読書感想文も書きやすかったです」(女の子 11歳)「とてもいい本で、のび太の見方が変わりました。読書感想文に使わせていただきます」(男の子 12歳)
書店のPOSデータを見ると、40代女性の購入者が増えているデータがありました。最初は何で40代女性が買っているのかわからなかったのですが、はがきが続々届くようになって、気づきました。小学生、中学生の母親が買っていたことに。そこで、「ビジネスパーソン向けの自己啓発書」から「子ども向けの読書感想文に使える本」に、この本のポジションをずらしました。書店の売り場も「ビジネス自己啓発書」のコーナーから「児童書」のコーナーに変えてもらえるよう、お願いしてまわりました。たとえば、夏場なら、夏休みの課題図書の本の横に置いてもらうわけです。すると、子どもたちに本が届くようになり、40万部を越えるベストセラーになったのです。価値を変換させてヒットしたわけです。

今週のカンブリア宮殿でゴディバが取り上げられていましたが、ハートのボックスに入っているチョコレートを「人にプレゼント」から「自分へのご褒美」にずらしたことで、大ヒット商品に変わったという話がありました。いまあるものの横に、新しい価値が隠れている可能性があります。

「ずらす法」は、価値の再発見です。あたり前になってしまったことも、一度「ずらす法」で見直すことで、新しい価値が生まれる可能性があるのです。
新しいものを作るだけがイノベーションではありません。「価値の再定義」でイノベーションを起こすこともできるのです。





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