禁断の代償 第一巻: 「告発の影」

プロローグ

この世界では、愛することさえも許されない。

それが、この国に住むすべての人々が知る厳然たる現実だった。不倫や浮気は単なる道徳的な逸脱ではなく、法によって裁かれる犯罪行為とされた。家庭は国家の基礎であり、その基盤を揺るがす行為は社会全体の安定を脅かすとされていた。

高層ビルが立ち並ぶ都市の片隅に、小さなアパートの一室があった。夜の帳が降りる中、その部屋からは薄暗い光が漏れていた。光の中で、ひとりの女性が窓際に佇んでいた。彼女の名前は佐藤真希。35歳、専業主婦。彼女の表情には、安らぎと不安が交錯していた。

第1章: 禁断の始まり

真希は窓の外を見つめていた。東京の街並みはネオンの光で満たされ、街道を行き交う車のヘッドライトが線を描いていた。そんな都市の喧騒からはかけ離れた静寂の中、彼女の胸の中には抑えきれない衝動が渦巻いていた。

「もし、このままではいけないと誰かが言ったら?」

その言葉が頭をよぎったが、彼女はそれを振り払うように首を振った。ここ数週間、彼女は心の奥底で燻る感情に支配されていた。夫の隆は家に帰ることが少なくなり、彼女の孤独感は日増しに深まっていた。二人の子供たちは学校生活に忙しく、真希の存在を感じることもほとんどなかった。

その時、真希のスマートフォンが震えた。メッセージの通知が表示されると、彼女は胸の高鳴りを抑えられなかった。送信者は田中健二だった。彼は真希の高校時代の同級生で、偶然にも最近再会した人物だった。

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