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少女漫画の化けの皮「キミが、イイ。」

名仁川るい先生の新作単行本です。問答無用で購入しました。
自分はこの方の本に救われたことがある人間なので、その魅力は余すことなく伝えられると思います。

名仁川るい先生らしさとは

この方の漫画を表面的に語るとすれば、どうしても俗説的な言葉選びをするしかなくなります。
なぜならこの方の漫画は成人漫画であり、どうあっても性行為描写から射精を促すまでの展開をなぞらえる必要があるので、傍目にはその一側面しか覗き見ることが出来ません。
しかし成人漫画とはそう簡単な話ではなく、展開一つとっても、どの感情に刺さる描写をするかによって作家性は全く異なります。
成人漫画における作家性については、絵で魅せるか、物語で落とすか、キャラクターを生かすかなどさまざまです。

そしてここでいう名仁川るい先生の作家性、それは少女漫画にあると思います。

少女漫画の特徴

僕自身たくさんの少女漫画を読んできたわけではないですが、いくつか読破した本から自分なりに感じた共通点を述べていきます。
・異性絡みの失敗体験
・コンプレックスを押し殺す
・望む見返りの小ささ
・全てを肯定してくれる相手
こんなところですね。
これはおそらく時代背景も影響してくると思いますが、僕が読んできた少女漫画はこういう現実的な出来事が身に沁みるものばかりでした。

そして名仁川るい先生の漫画はこれらの核を全て抑えているのです。

上記の共通点を文章に起こすと
「人間関係に亀裂が走る出来事が起こり、その原因が自分にあることを知った主人公はそれをコンプレックスに感じる。そして周囲にも多くを期待しなくなり、自分にとって幸せは不相応なものと捉える」
となります。一気に少女漫画っぽくなりましたね。
これと同じことが、この単行本にもシリーズ構成で収録されています。
「自分の綺麗な瞳が友達の彼氏を狂わせ、そのせいで友達を傷つける。そしてそれをコンプレックスに感じるようになった主人公は、眼鏡をかけて周囲を断絶するようになる」
まさしく僕が読んできた少女漫画です。
こういう少女漫画は簡単に感情の臨界点を突破できるんですよね。

感情に蓋をすることでハードルを低く設定する。
だからそれ以上の幸せが舞い込んだ時には無常の喜びを得ることが出来る。

その多くを望まない健気さもまた可愛いんですよ。

ただめっちゃエロい

正直めちゃくちゃエロいです。
少女漫画っぽさをフリにして、とんでもなく淫らな行為を見せつけられます。
リミッター壊れた女の子はこんなことになるのか、と若干引くくらいに乱れます。
見たことないくらい口開けたりして、まあなんてはしたない、と思ったりします。

ただそれに関しても、男の乱れ方とはまた違う気がするんですよね。
エロいのはエロいんですけど、それらを同種のエロと捉えていいのかという話です。

男女間の違い

男視点で言わせてもらうと、性行為に関しては 性欲>愛情 です。
基本的に男はアホなので、その時の感情は一つしか持ち合わせていません。
ただこの漫画を見てると、もしかすると女性は性行為に関しては 愛情+性欲 なのかもしれないなと思いました。

元来女性はマルチタスク脳だと言われており、同時に二つのことをこなす能力に長けていると聞きます。
だからこそ性行為中にも、入り乱れる複数の感情を全てぶつけることができるのかもしれません。
逆に言えば男はシングルタスク脳なので、一度スイッチが入ればそれしか考えることが出来なくなります。

これは僕の偏見ですが、男の欲望には品がなくて、女性の欲情には品があると思っていました。
ここでいう品が何なのか、今までは具体的に明言できなかったのですが、もしかするとこういう違いがあるのかもしれませんね。

感想

ひたすら堅苦しい考察をしてきましたが、まとめるとこういうことです。

少女漫画的な作り方であるにも関わらず、性行為描写はぶっ飛びすぎてどエロ。
コンプレックスや失敗体験のせいで蓋をしていた欲望が、殻を突き破った瞬間に思いっきり醜態を晒す。
そこから先の欲望はもう青天井。
見るも淫らな組んずほぐれつは、神さえ冒涜するようなあられもなさ。
だいたいこんな感じです。

いやー、羨ましいですね。
人生一回でもこんな体験できたらもう、その人生はアガりじゃないですか?

重いも軽いも言葉足らずも、性行為一つで通じ合える関係性は男の夢だと思います。

こういうのは手段一つでどうとでもなるもので、例えば一緒に歳を取って、性行為とかそういう年齢ではなくなったとしても、それで共鳴した経験はきっと変わらず残り続けると思います。
それが僕の年頃においては、性行為という手段によって気持ちが通ずるのが眩しくて羨ましいという話です。
それが少女漫画との掛け合わせによって一層ドラマチックになるので、見ていて清々しい気持ちを感じるのもこの本の魅力だと思いました。

救いについて

最後に、冒頭で述べた救いについてです。

救いを与えるものとして、分かりやすい例は宗教でしょうか。
もちろんそれらはいいもの悪いもので千差万別ですが、全部に共通して言えるのは、寄り添う気持ちがあることだと思います。
それらが問題になるのは、その過程で継続的な金銭が発生することであって、宗教それ自体には何ら悪いところはないと思います(ただ悪質な思想であれば話は別です)。

寄り添った上で、明確な道筋を示す。
自分にとって名仁川るい先生の漫画はそれに近いかもしれないです。

失敗体験が尾を引くことに親近感を覚える。
コンプレックスがある日常に共感する。
想像以上の見返りが怖くなる。

全部が自分のことのように思えます。
そしてこの漫画ではそういう引け目に対して、全てを肯定してくれる相手を用意することで主人公を包み込んでいます。
それから猛烈な性行為をしてます。

全てを肯定して包み込んでくれる相手、自分にとってはこの漫画がそういう役割を担っています。

ぶっちゃけ自分には多少歪んだ感情があって、その生きづらさをずっと抱えたまま何とか生きてきました。
しかしこの方の漫画に出会って、クスリを疑うくらいよがり狂っている女の子を見て
「もしかしたらもう少し生きてみてもいいのかな」
と思った次第です。

変な人が自分より変な人を見れば正気に戻るじゃないですか。
あれと同じ気持ちをこの方の漫画に与えてもらいました。
一見少女漫画かと思ったら、とんでもないエロ本でしたからね。

長々と書き綴ってきましたが、本当に言いたいことはこの部分です。
もし自分と同じように全部が嫌になっている人がいたら、こういう本から得られることもあるよ、ということが伝えたかったです。
カジュアルに救ってもらえるので、個人的にはおすすめですね。

散々教的な話をしてきたので、締めくくりとして過激的な感想を述べるとすれば、僕は作者さんのポルノ表現の全てを肯定してあげられるファンでありたいと思っています。
以上です。

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