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コアカリキュラム(商行為法)解答案

滝川沙希です。
商行為法に関するコアカリキュラムの問と、私なりに作成した解答をあげます。コピペして利用するなりしていただければ僥倖でございます。

まずは、このコアキャリをすべて理解、暗記なさると良いでしょう。
難しいことは、それからです。

参照文献
■加藤晋介監修『新しい商法が分かる本【全条文付】』成美堂出版 2019
■伊藤塾『伊藤真の条文シリーズ4商法・手形小切手法』弘文堂 2006
■金子宏、新堂幸司、平井宜雄『法律学小事典第4版』有斐閣 2008

第3編 商行為
第1章 総則

1-1 商行為
○商行為の定め方に関する、客観主義、主観主義および折衷主義とはどのようなものであるか、また、わが国の商法がどの立場に立脚するものであるかについて、理解している。
・①客観主義とは、行為の客観的性質から商行為であるかを決定する仕方。
②主観主義とは、商人の概念を定めてその商人の行為を商行為とする仕方。
③折衷主義とは、主観主義的要素に主導的地位を認めながら、客観主義との組み合わせで商行為の範囲を決める仕方。
・わが商法は折衷主義をとる

○絶対的商行為、営業的商行為および附属的商行為とはどのようなものか、それぞれ具体例を挙げて説明することができる。
・絶対的商行為とは、投機売買及びその実行売却、登記売却及びその実行購買、取引所にてする取引、並びに手形その他の商業証券に関する行為を絶対的商行為としている(501)。
・営業的商行為とは、投機貸借及びその実行行為、他人のための製造加工、電気・ガスの供給、運送、作業・労務の請負、出版・印刷・撮影に関する行為、場屋の取引、両替その他の銀行取次、保険、寄託の引受け、仲立ち・取次、商行為の代理の引受け、信託の引受けが列挙されている(502但)。
・附属的商行為とは、商人がその営業のためにする行為。運送業者が営業として行う行為は運送を引き受けることであり、トラックの購入ではない。しかし、営業のためにされる行為だから商行為として商行為に関する商法を適用する(503Ⅰ)。

○基本的商行為および補助的商行為とはどのようなものか、理解している。
・基本的商行為は、①絶対的商行為、②営業的商行為からなる。商人概念の基礎となるものであり基本的商行為とされる。
他方、補助的商行為は、商人概念から導き出されるもの。③付属的商行為がこれにあたる(503Ⅰ)。
 ②と③とで相対的商行為と呼ぶことがある。このとき①は絶対的商行為。

○一方的商行為および双方的商行為とはどのようなものか、理解している。
・一方的商行為とは、当事者の一方にとってのみ商行為である行為をいう。小売商と一般消費者の売買、銀行と非商人との取引など。一方的商行為においても、当事者双方に商法の適用がある(3Ⅰ)などから、商人間の留置権(521)を除き、双方的商行為との区別の実益は少ない。

○営業的商行為の要件である「営業としてする」とはどのような行為か、理解している。
・営業としてする(502)とは、営利の目的で継続的になすことをいう。そうでなければ商行為とならない。これは、経営規模が小さいことから商法を適用するのに適さないため。

1-2 約款
○約款の法的拘束力の根拠に関する判例・学説の状況を理解している。
・判例は、意思推定説。学説は、自治法規説、白地商慣習説などがあるが、顧客保護の観点から同意の範囲を操作する可能性を持った契約的構成が有力。


1-3 商行為の代理・委任
○商行為の代理について、民法上の代理と対比しつつ、その特色を説明することができる。
・民法上の代理は、①代理人が法律行為をし、②顕名し、③権限を有することで成立する(民99Ⅰ)。
・商行為の代理は、②の顕名なしに代理権を発生させる。趣旨は、顕名が煩雑であるし、商取引では本人を知っていることが通常であるから(非顕名主義)。
・非顕名主義を徹底させると、相手側が本人を知らなかったときに不測の損害を被る。504条但は相手方の保護を図る。
・判例通説によれば、非顕名主義とは、①本人と相手方との間には504本文で代理関係が生じている。
②相手方において代理人が本人のためにすることを不知(過失で不知を除く)は、相手方を保護するため。相手方と代理人との間にも①と同じ法律関係が生じる(本人は無資力かも知れない)。
③相手方は選択により、本人との法律関係を否定して代理人との間で法律関係を主張することを許容するものという。
理由は、相手方の選択で本人または代理人がそれぞれ債権者的地位及び債務者的地位に立つので、関係者の妥当な利害調整を図ることができるから。

○商行為の代理であることを知らずに代理人と取引した者が代理人に対して履行の請求をすることができるための主観的要件は何か、また、代理人に対し履行を請求した場合における相手方と本人との間の法律関係の帰趨について、判例・学説の状況を理解している。
・主観的要件は、相手方が本人のためにすることを知らず、かつ知りえなかったこと。
・判例通説によれば、代理人に対し履行の請求をした場合は、”本人は”もはや相手方に対して、本人・相手方間の法律関係の存在を主張できなくなる。

1-4 商人の行為・商行為の営利性
○商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときに相当の報酬を請求することができる理由および「他人のために行為をした」に該当するとされる場合に関する判例・学説の状況を理解している。
・民法では原則無償(民648Ⅰ、民656、民665)。しかし、商人は営利目的で活動するのだから、原則として有償とした(512)。
「他人のために行為をした」に該当するとされる場合に関する判例・学説について。
「他人のため」とは、行為者の主観で他人の利益のためにするだけでは足りず、客観的に他人の利益のためにする意思をもってしたと認められるものである必要がある。
「行為」とは、事実行為も含む。ただし社会通念上、無償が通常だとされる行為は特約がない限り、報酬請求権は認められない。
判例:①宅建業者が売主からの委託を受けずにかつ売主のためにする意思を有しないでした売買の媒介については、売主に対して報酬請求権は有しない(S44.6.26)。
②宅建業者に仲介を依頼した者が、仲介活動途中でこれを排除して直接買主と売買契約を締結した場合、契約成立の時期が仲介時期と近接しており売買価格が業者と買主とのした相談したわずかに価格を上回っていたに過ぎない事情の下では報酬支払義務を免れない(S45.10.22)。
③無免許営業の場合、報酬支払い債務は、自然債務であるH10.7.16東京地判)。

○商事法定利率が民事法定利率に比して1%高いことを理解し、商事法定利率
が適用される「商行為によって生じた債務」とはどのような債務か、たとえ
ば商行為たる契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権などの例を挙げつつ、
説明することができる。【削除された】
・商事法定利率を年6分とした商法514条は削除された。民法上の3%が適用される。


1-5 商事債権に関する固有の規律
○数人がその1人または全員のために商行為たる行為により債務を負担したと
きは、特約で排除しない限り、当該債務は連帯債務となるものとされる理由
について、具体例を挙げて説明することができる。
・数人の債務者があるとき民法427によれば、各債務者は平等の割合で義務を負う(分割債務の原則)。これに対して商法は信用を強化するために債務者の責任を重くして連帯債務とした(511Ⅰ)。その結果、債務者は、それぞれ独立に全部の弁済を行うべき債務を負担することになる。
 たとえば、建築工事の請負を目的とする共同企業体を結成して、その企業体が事業を行うために第三者に対して債務を負担した場合には、共同企業体の構成員である会社は、この債務につき連帯債務を負うことになる(H10.4.14)。

○多数債務者間の連帯債務に係る規律は、債務者・債権者のいずれにとって商
行為である場合に適用されるかに関する判例・学説の状況を理解している。
・511Ⅰで連帯債務になるのは債務者にとって商行為となる場合に限られる。債権者のためにのみ商行為であるときには、本条は適用されない(判例)。債権者にとって商行為だからといって非商人の責任を強化するのは適当でないから。
ただし、債務者にとって商行為となるなら、これと同一性のある債務すなわち損害賠償責任や解除の際の原状回復義務についてもこの規定が適用される。
・保証人の連帯(511Ⅱ)については、催告の抗弁(民452)、検索の抗弁(民453)、分別の利益(民456)がないところ、511条2項の「保証が商行為であるとき」の意義について判例、学説は次の通り。
・判例は、債務者のために商行為となるときだけでなく、債権者のために商行為であるときも含む(保証する行為(例:銀行が取引先のために保証)が商行為であるときのみならず、保証させる行為(例:銀行が貸付にあたり非商人に保証人となってもらう)が商行為であるときも含む)という。
理由は、①2項の趣旨が債務の履行の確保にあるのだから、債務者のために商行為とならない場合であっても債権者のために商行為であれば511条の趣旨を及ぼすべきである。②文言上素直である。
・他方、学説は、債権者のために商行為である場合に限るとするのが多数である。理由は、①2項後段の趣旨は、商人の信用について責任を厳格にして取引の円滑を図る点にある。②商事保証の場合は、保証に伴い保証人に何らかの営利が帰属するのが通例で、連帯保証としても過度な負担を強いることにはならない。

○商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については、流質
契約が許容されている趣旨を理解している。
・515条は流質契約が許容される(民349を適用せず)。
・民法では質権設定者よりも経済的に優位な質権者による暴利行為を防ぐため、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで、質物を処分させることを約すること(流質契約)は禁止される(民349)。しかし、商人は経済活動を行う者として冷静かつ合理的に利害計算をする能力があるので、民法のような保護は不要である。また商取引においては、金融の便宜を与えたほうがよい。

○商人間の留置権の成立要件および法的効力について、その他の商事留置権(商
法31条・557条・562条・589条・753条2項)を含めて、民法
上の留置権と対比しつつ、説明することができる。
・成立要件は、①当事者双方が商人であること、
②被担保債権が当事者双方のために商行為となる行為によって生じたこと、
③留置権の目的物は、債務者の所有する物または有価証券であること(民法では、第三者所有物も留置可。商法では不可)、
④留置権の目的物は、債務者との間における商行為によって債権者の占有に属したものであること、
⑤債権の弁済期が到来していること。

○商事消滅時効が債権の消滅時効に関する民法の一般的規律に比較して短期と
されていることを理解している。【削除された】
・商事消滅時効を定めた522は削除され、民166条①②に統一された。

1-6 商人間の契約の申込み等
○商人である対話者間において契約の申し込みを受けた者が直ちに承諾をしなかった場合の申込みの効力(商法507条)について、理解している。【削除された】民525Ⅲに同趣旨の規定創設。

○商人である隔地者間において、承諾の期間を定めずに契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかった場合の申込みの効力(商法508条)について、民法の規律が適用される場合と対比しつつ、説明することができる。
・承諾の通知を発しなければ、効力がなくなる(508Ⅰ)。「相当の期間内」とは、申込者が満足するだろうと合理的に考える期間で、諸般の事情を考慮する。
相当の期間を過ぎて承諾の通知を発した場合、契約は成立しないが、新たな申し込みとみなすことができる。この場合、民法524条が準用される(508Ⅱ)。

○商人が、平常取引をなす者から、その営業の部類に属する契約の申込みを受
けたときの承諾に関する商法の規律の内容およびその理由を(商法509条)、
民法の原則と対比しつつ、説明することができる。
・承諾をするかどうか、通知をしなければならず(509Ⅰ)、通知しなければ承諾とみなされる(Ⅱ)。
このように民法上は存在しない諾否通知義務を商人に課した理由は、継続的取引関係、商行為の迅速性から取引の相手方を保護するため。
・民法上は、①諾否通義義務はない。②承諾なくして契約の成立はない(民522Ⅰ)

第2章 商事売買

○定期行為に係る民法の原則(民法542Ⅰ④)と対比しつつ、定期売買に関する商法の特則(商法525条)の内容およびその理由について、説明することができる。
・民法上、定期行為において当時者の一方が履行期を徒過した場合は、相手側は催告をすることなく、ただちに契約の解除をすることができる(民542Ⅰ④)。催告は不要であるが、解除の意思表示は必要である。
これに対して商法上は、履行期の徒過とともに契約が当然に消滅するものとした。契約を存続させるには相手方が「履行の請求」をすることを要する。商取引の迅速性に配慮し売主の利益保護を図ったもの。

○商人間の売買における売主の自助売却権および供託権について、民法の規律と対比しつつ、その要件および効果を説明することができる。
・自助売却とは競売のこと。①商人間の売買であること、
②買主の受領拒絶または受領不能があること、売主は履行の提供(民493)をしなくてよい。
③買主に対する催告があること。「相当の期間」を定めて催告するが、相当の機関とは受領するかどうかを考慮するのに十分な期間。

○商法526条の趣旨および同条の定める通知義務に違反した場合の法的効果について、説明することができる。
・民法の原則では、買主は1年以内に売主に通知しないと、契約不適合を理由とする履行の追完の請求、代金減額、損害賠償請求、契約解除ができない(民566)。
他方、商法上、買主は遅滞なく売買の目的物を検査する義務がある。①検査の結果、売買契約に適合しないことを買主が発見したときは、直ちに通知しなければ、売主の責任を追及できない、②契約不適合を直ちに発見できない場合でも、買主が6か月以内に発見したときは、①と同じ。
・目的物を受け取った場合は検査義務、契約不適合の場合は通知義務、契約不適合を理由に解除した場合は保管・供託義務(527)。

 第3章 交互計算

○ 交互計算とはどのようなものか、その概要を説明することができる。
・「商人間又は商人と商人でない者との間で平常取引をする場合において、一定の期間内の取引から生じる債権及び債務の総額について総裁をし、残額の支払いをすることを約することで効力を生ずる。」(529)と規定する。これを交互計算という。第三章(529~534)に規定。

第4章 匿名組合

○匿名組合とはどのようなものか、その概要を説明することができる。
・「当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる」(535)と規定する。これを匿名組合という。第四章(535~542)に規定。
・匿名組合の当事者は、匿名組合員(出資者のこと)と営業者との二当事者。3人以上の匿名組合はありえない(複数の匿名組合契約があるに過ぎない)。
・営業者の出資はありえない。営業者の財産に帰属する(536)から。民法上の組合契約だと総組合員の共有(民668)。
・匿名組合員は、営業者の行為について第三者に対して権利及び義務を有しない(536Ⅳ)。民法上の組合では組合員が無限責任を負う(民675)こととは異なる。


第5章 仲立営業

○仲立人とは他人間の商行為の媒介を行うことを業としているものであること、仲立人と問屋・代理商(締約代理商・媒介代理商)の異同を理解しているとともに、「媒介」とは何かを例を挙げて説明することができる。
・媒介とは他人間に契約を成立させるために各種の事実行為をなすこと。相手方を探し、契約条件の調整をすること。
・自己の名をもって第三者のために法律行為をする取次商(問屋、締約代理商)とは異なる。
・仲立人が媒介するのは不特定の商人の法律行為(商行為)であるが、媒介代理商は、特定の商人から依頼されその商人の取引を媒介する。仲立人は契約当事者双方の利益を考慮するが、媒介代理商はそうではない。

○民事仲立人の意義を、結婚仲介業者を例として説明することができるとともに、民事仲立人も仲立ちに関する行為を業とすることにより商人となることを理解している。
・結婚仲介は日常の世話として行う限り、商行為でないから、仲立人が行う商行為の媒介ではない。
商行為でない法律行為の媒介を営業とする者は、民事仲立人である。
・仲立人は他人間の商行為の媒介を営業とする者。営「業とし」て「仲立」を引き受ける行為は基本的商行為の一つだから(502⑪)、仲立人は商人となる(4Ⅰ)。

○仲立人が負う義務は当事者の双方に対するものであることについて理解している。
・仲立人は委託者と仲立契約をするが、媒介される法律行為の相手方当事者とは契約関係はない。しかし、仲立人はこの相手方の利益を考慮することが求められて、その代わりに仲立人は当事者双方から報酬を請求できる(550Ⅱ)。
・相手方の利益の考慮とは、見本品保管義務(545)、結約書作成・交付義務(546)に表れている。これらの義務は、後日の紛争を防ぐ趣旨である。
○仲立人が有する報酬請求権について説明することができる。
・仲立契約は準委任(民656)であるが、委任契約は原則として無償(民648)。仲立人はたとえ民事仲立人であっても商人だから特約の有無に関係なく相当な報酬を請求できる(512)。
・「結約書」(546)の作成が完了した後でないと仲立人は報酬請求できない。報酬は契約の当時者が折半して負担する(550Ⅱ)。結約書は紛争の未然防止が趣旨。
・仲立人は、「費用」の請求はできない(民649、650)。費用も報酬に含まれているのが通例だから。


第6章 問屋営業

○問屋(といや)の行う取次ぎについて、代理との異同を説明することができ
る。
・問屋は、自己が直接に行為の当事者となり、その行為から生じる権利義務の主体となることをいう。
この意味で問屋は本人の名をもって行為する締約代理商(27)その他の代理人、法律行為の媒介をするに過ぎない媒介代理商(27)又は仲立とは異なる。

○問屋とは何かを証券会社を例として、準問屋とは何かを広告業者を例として、
説明することができる。

○簡単な事例を用いて、問屋が相手方と契約を締結することにより、問屋が相
手方に対してどのような権利・義務を有することになるのか(商法552条1項)を説明することができる。
・問屋の義務は次の通り。①民法上の義務(民644)として善管注意義務を負う。
②履行担保義務(553本文)。問屋は相手方が契約上の債務を履行しない場合は、特段の特約又は慣習がない限り、委託者に対して問屋自らその履行をする責任を負う(553本文)。問屋制度の信用を確保し、委託者の保護を図るもの。
③通知義務問屋が委託者のために物品の販売又は買入を行った時は、問屋は、遅滞なく、委託者に対してその通知をしなければならない(557,27)。
④指値順守義務。問屋は委託者からの指示に従う必要がある。そこで、委託者が販売又は買入について、指値、つまり販売価格又は買入価格を指定した場合には、問屋はこれに従わなければならない。問屋が指値よりも安く販売し、又は高く買入をしたときは委託者としては、その売買の効果を自分に帰属させることを拒否することができる。
ただし、問屋が指値との差額を負担するなら、その売買の効果は委託者に帰属する(554)。委託者としては当初の目的を達成できるし、問屋にとっても差額を負担しても報酬の方が多ければ利益にある。
・問屋の権利は次の通り。
①報酬請求権(512)。ただし、委任された事務を実行した後に請求可能(民648Ⅱ)。
②費用償還請求権。委託者に対し前払い金や立替金、利息を請求できる(民649、650、商513Ⅱ)。問屋契約は、委託者が問屋に第三者の契約の当事者になってもらうように委任することを内容とするから、民法の委任に関する規定が適用される。
③留置権。委託者に対して有する前述の報酬請求権、費用償還請求権が弁済金にあるときは、その弁済を受けるまで、委託者のために占有する物又は効果証券を留置することができる(557、31)。
問屋の場合には、商事留置権(521)とは別に規定がある。これは委託者が商人でないことがあるため、商事留置権が成立しないケースもありえる。そこで、商事留置権とは別に留置権を整備。
④供託・競売権
問屋が買入の委託を受けた場合、委託者が買い入れた物品を受け取ることを拒み、又は、これを受け取ることができないときは、問屋はその物品を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売をすることができる(556、524)。
買入の委託の場合は、問屋は商事売買における売主に類似した地位に立つので、同様の保護を与えたもの。
⑤介入権
問屋は、取引所の相場がある物品の販売又は買入の委託を受けたときは、自ら買主又は売主となることができる。この場合の売買の代価は、問屋が買主又は売主となったことを委託者に通知したときにおける、取引所の相場によって定める(555Ⅰ)。
この場合でも、問屋は、委託者に対して召集を請求することができる(Ⅱ)。


第7章 運送営業

7-1 運送人の意義
○運送人とはどういうものか、説明することができる。
・陸上運送、海上運送又は航空運送の引受けをすることを業とする者をいう(569Ⅰ)。
・運送に関する行為は、営業的商行為であるから(502④)、運送営業は運送を業として引き受けるものとして商行為に該当し、運送営業を行う運送人は「商人」である(4Ⅰ)。運送人の典型例は宅配業。

7-2 物品運送
○物品運送とはどういうものか、説明することができる。
・物品を運送すること。物品運送契約とは、運送人が荷送人からある物品を受け取って、これを運送して荷受人に引き渡すことを約束し、荷送人がその結果に対してその運送費を支払うことを約束することによって効力を生じる契約をいう(570)
・物品運送契約は、運送という仕事の完成を目的とするもので請負契約(民632)の性質を有する、
・荷受人は契約の当事者ではない。しかし、運送品が目的地に到達し、又は運送品の全部が滅失したときは、荷受人は物品運送契約の荷送人の権利と同一の権利を取得する(581Ⅰ)。

○商法上運送人が負う債務不履行責任について置かれている特則(商法577条~581条、588条、589条、566条)はどのようなものであるか、そのような特則が置かれている理由について説明することができる。
・577【運送人の損害賠償責任】→改正で575条に。運送品が滅失、損傷、遅延したときの損害賠償責任を定めている。債務不履行を理由とする損害賠償責任について民法415条に規定がある。
当該既定は、①債務者は履行補助者の故意または過失についても責任を負うこと、②無過失であることの立証責任を負うものと解釈されている。575条は、この民法上の原則を確認したもの。
・578【高価品に関する特則】→改正で577条に。荷送人が高価品の運送を委託するにあたり、その種類及び価額を明示して告げなければ運送人は損害賠償責任を負わないとしたもの。高価品とは、容積又は重量のわりに著しく高価な物品(判例)。
・579【相次運送人の連帯責任】→改正で前4項に。海上運送及び航空運送について準用されることに。
・580【損害賠償の額】→576に。民法416によれば、賠償額は原則として、通常生ずべき損害となり、特別の事情によって生じた損害であっても予見すべき時は賠償を請求される。当該規定は民法の特則で、市場価格を賠償すれば、実際に発生した損害額がこれよりも多額であっても構わないことになる。逆に損害額は市場価格より低くても市場価格を支払うことになる。損害額を定型化し処理の画一化を図る趣旨。
・運送人の故意または重過失によって運送品の滅失・損傷が生じたときは適用がない(Ⅲ)。運送人を保護する必要がないから。
・581【定額賠償主義の例外】→576Ⅲに(上記)。
・588【責任の特別消滅事由】→584、585に改正。運送品の損傷又は一部滅失があった場合、それが直ちに発見することができないものであり、荷受人が引渡の日から2週間以内に運送人に対してその旨の通知を発したときを除いて、荷受人が異議をとどめないで運送品を受け取ったときは、運送人の責任は消滅するという責任の消滅事由を定めたもの。
・これは運送人が短期間に運送品を引き渡し証拠関係も十分に保全できるとは限らないから運送関係を早期に解消させ運送人を保護する趣旨。
・589【運送取扱人に関する規定の準用】
・566【運送取扱人の責任の短期時効】→586に改正。

★587条→576,577,584,585条は、不法行為による損害賠償責任に準用すると規定。債務不履行責任を減軽、免除することを明記した。

○運送人が荷送人に対して債務不履行責任を負う場合に、同時に不法行為の要
件も満たされている場合の両請求権の関係について、判例・学説を踏まえて
説明することができる。
・判例は請求権競合説の立場から債務不履行責任と不法行為責任の併存を肯定する。しかも各条項が適用されるのは契約責任のみで不法行為責任には適用がないという(不法行為責任を追及できる)。①両者は要件、効果が異なる。②被害者である荷送人に選択させるのがその保護に資する。
・学説は、請求権競合説が有力であったが、現在は法条競合説が有力。債務不履行責任は特殊な不法行為の責任をもつので、一般の不法行為の成立を阻却するという(契約法と不法行為法とは特別法と一般法の関係にたつ)。
 特に高価品の場合に問題となるが、請求権競合説では契約責任が生じないときにも不法行為責任を追及できるが、法条競合説ではできない。

○荷送人・貨物引換証の所持人が有する運送品の処分権について理解している。
【削除された】 

○荷受人の地位および荷受人が運送の進展とともにどのような権利・義務を取
得・負担するかについて理解している。
・荷受人とは到達地において自己の名をもって運送人から運送品の引き渡しを受けるべき者のことをいう。本来契約当事者は荷送人であったはずで、荷送人が運送契約上の権利・義務を有するはずである。
・荷受人は荷送人によって指定される(571Ⅰ④)。運送の進行に伴い、荷受人も権利・義務を有すると考えられている。①運送品が到達地にいまだ到着していない時点:荷送人だけが権利義務を有する。②到達した時点:荷受人は、運送契約上の荷送人の権利を取得する(581Ⅰ)。③運送品を受け取った時点:運送人に対して運送賃等を支払う義務を負う(581Ⅲ)。


7-3 貨物引換証
○貨物引換証とは何か、船荷証券との異同、貨物引換証の所持人の地位がどのようなものであるか、および貨物引換証がどのような性質を有する有価証券であるかについて説明することができる。【削除された】
○貨物引換証の文言証券性と有(要)因証券性の関係について、判例・学説を
踏まえて説明することができる。【削除された】

7-4 旅客運送
○旅客運送人が旅客に対して負う責任について理解している。
・運送人は運送に関して注意を怠らなかったことを証明しない限り、旅客外運送のために受けた損害を賠償する責任を負う(590)。
・損害賠償の対象は、旅客の生命・身体、延着損害、逸失利益を含む。
・旅客の手荷物について、運送賃を請求しないときであっても、物品運送契約における運送人と同一の責任を負う(592Ⅰ)。具体には、損害賠償責任(575)、損害賠償額の定額化(576)、高価品の特則(577)など。
・運送人の旅客運送契約に基づく債権の消滅時効について物品運送と同様に行使できる時から1年の経過により時効消滅が明記されている(594、586)。


第8章 倉庫営業

○倉庫営業者の権利・義務について説明することができる。
・権利:①倉庫営業者は特約がなくとも相当の報酬(保管料)を請求することができる(512)。立替金その他の受寄物に関する費用も同様。
②倉庫営業者が有する保管料等の債権については、物品運送人の債権のような特別の留置権(574)は認められていない。ただ、民商法上の一般の留置権を取得することはある(521、民295)。動産保存の先取特権を行使することもできる(民320)。
③倉庫営業者は、寄託者又は倉荷証券の所持人が寄託物の受領を拒み、又はこれを受領することができない場合について、商人間の売買の売主に準じた供託・競売権が認められている(615が準用する524Ⅰ、Ⅱ)。
・義務:①倉庫営業者は、報酬を受けなくとも寄託を受けた場合は、善管注意義務を負う(595)。
②倉庫営業者は、保管期間につき特約がない限り、やむを得ない事情がなければ、受寄物を倉庫に入れてから6か月を経過しないと返還することができない(612本文)。民法上保管時期を定めていない場合は、受寄者はいつでも委託物を返還することができる(民663Ⅰ)。倉庫営業者への寄託者はある程度の期間の保管を期待しているはずであり、随時に返還されてしまうと経済的意義を損なう可能性があるため、民法を修正したもの。寄託者からの返還請求はいつでも可能(662Ⅰ)。
③倉庫営業者は、寄託者の請求によって、倉荷証券交付義務を負う(600)。
④寄託者又は倉荷証券の所持人は、営業時間内であればいつでも、倉庫営業者に対して、寄託物の点検・見本提供を求め、保存に必要な処分をすることができる(609)。
⑤倉庫営業者は、寄託物の保管に関して注意を怠らなかったことを証明しなければ、その滅失又は損傷について損害賠償を免れることができない(610)。民法の債務不履行責任の一般原則通りであり、商法は注意的に規定しているに過ぎない。寄託者が寄託物の所有者であるかどうかは、当該請求の可否に影響しない。

○寄託者が倉庫営業者に対して有する権利、負う義務について理解している。
【前問との区別が困難】

○いわゆる倉庫証券とはどのようなものか、説明することができる。
・倉荷証券とは、倉庫営業者に対する寄託物の返還請求権を表章する有価証券である。すなわち、倉荷証券が発行されれば、それのみで寄託物のじょうとや質入れが可能になるものである。
・倉庫営業者は、寄託者に請求により、寄託物の倉荷証券を公布しなければならない。
・倉荷証券には、「寄託物の種類、品質及び数量」(601①)などを記載しなければならない。

第9章 場屋営業

○場屋(じょうおく)営業とはどういうものか、説明することができる。
・場屋営業とは、旅館、飲食店など客の来集を目的とする場屋における取引のことをいい、場屋取引を業とする者を場屋営業者という(596Ⅰ)。
・場屋取引は、営業的商行為(502⑦)であり、場屋取引を業として行う場屋営業者は商人である(4Ⅰ)。


○場屋営業者が負う債務不履行責任について商法上置かれている特則はどのようなものであるか理解し、そのような特則が置かれている理由について説明
することができる。
・民法上、物の保管を相手方に委託し、相手方が承諾したことで効力を生じる契約を寄託という(民657)。この場合、無報酬の受寄者は注意義務が軽減され、自己の財産におけるのと同一の注意で保管義務を負うに過ぎない(民659)。
これに対し商法では、無報酬の時でも善管注意義務が課される(595)。商人の信用を高める趣旨である。
・客から寄託を受けた物品についての場屋営業者の責任について、不可抗力で紛失等があったことを証明しない限り、損害賠償責任を負う(596Ⅰ)。無過失であったことを証明することでは責任を免れることができない。
・客から寄託を受けなかった物品についての場屋営業者の責任について、寄託せずに場屋の中に携帯した物品であっても場屋営業者が注意を怠ったことによって紛失したり壊れたりしたのであれば、損害賠償責任を負う(596Ⅱ)。
・特約による責任の軽減・免除について、場屋営業者は一方的に責任を負わない旨の表示を行っても、損害賠償責任を免れない(596Ⅲ)。ただし、客が合意した場合は、軽減・免除される。
・高価品については、客がその種類や価額を通知したうえで寄託したのでない限り、損害賠償責任を負わない(597)。
・596及び597の債権は、場屋営業者が寄託を受けた物品を返還し、又は客が場屋の中に携帯した物品持ち去ったときから1年間行使しなければ、時効消滅する。

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