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星野源『光の跡』

 昔、いや本当に昔、小学生の頃。仰天アンビリバボーみたいな番組(色々混ざってる気がする)で前世がどうの、来世がどうの、という特集をやっていた。それを見終わったあと、風呂に入ろうか入るまいかというところで母と話した内容を今でも覚えている。「あんたの前世はなんやと思う?」と聞かれたわたしは「うーん、いない!〇〇は超新星!」と答えた。そしたら母親に「ずいぶん烏滸がましいことで」みたいなことを言われ、彼女はリビングへと戻って行った。わたしは首を傾げながら服を脱ぎカゴに入れてよく沸いた湯船に浸かり、超新星が一番いいに決まってるだろ、自分がオリジナルではなく誰かのコピーなんて嫌だ、なんでそんなこというの、と思ったところまで明確に記憶がある。

 仕事を納め、ようやくゆっくりと星野源さんの新曲『光の跡』を歌詞を見ながら聴いて最初に思い出したのはこの記憶だった。わたしは子供の頃から極端に「終わり」を怖がっていた。ハッピーセットしか知らない子供のようにわたしは「今あるもの」を信じ続けた。しかし23歳のときにほんの些細な破局を経験したことで、世界の見え方がガラッと変わった。別れた日、武漢でなんか感染症が流行ってるらしいね、という話をしたことも覚えている。その後に別れて、ただ自分の中に困惑だけが残り、世の中はコロナ禍に突入、社会人になり東京に出てきた。そして先月まで勤めた会社で働き始めた。元々好きだった源さんの歌詞だが、わたしがそこに気がつくようになったのがこの頃だったのかはわからないが、源さんが本格的に表題曲で「終わり」を歌い始めたのもこの頃だったように思う。

 あの時母が言った「烏滸がましい」は、世界が幾重の死、いや誰かの人生の跡の積み重なりでできていることを想像しなさい、ということだったのだと思う。小学生にはとても理解できたことではないと思うけど。

 これもアンビリバボー的な番組でやってたのを覚えているのだが、人類が地上から姿を消したら、人類の生きた証というのはいつまで残るのか、という特集のこと。紙とかデータがあっさり消えてしまうことに慄いた。万里の長城とかはまだ残るかもしれない、しばらくは…みたいなことを言っていたがそんなん万里の長城が残ったところで正直自分に関係なさすぎるとわたしは思っていた。自分の生きた証を残したいから小説とかいいかな、って思っていたら残らんじゃないですか。え、最終的にチリになって消えるの、体じゃなくて全てですか…と。わたしにとっての「生きることって無為」のルーツは多分この辺で、そうしたことが積み重なって刹那主義になっていたりする。

愛も傷も海の砂に混ざりきらきら波間に反射する

光の跡/星野源

 生きることの真理。源さんもインタビューで言っていたけど、地球を脱出して別の惑星に移住するまで人類が続くことっておそらくない。だからこの歌詞のような世界はいずれ訪れる。書物やデータに思いや人生を記せなくなったわたしたちに最後に残された、生きた証を残す方法は今を生きて「生きた」という事実を残して、あとは運命に身を任せて、天国から「今!そこで光ったでしょ、その波間の光、僕なんですよ〜」と言える状態に持っていくことだ。ただ、事実を積み上げていくこと。そして、その事実を少しでも輝かせていくこと。「どうせ死ぬのだから」という言葉には、諦観のようで希望が詰まっていると、わたしもやはり思う。

終わりは 未来だ

光の跡/星野源

 新卒からしばらく続けた前職を辞めた。辞めると伝えた日だけ大変なことになったが、それ以降は意外にあっさりと手続きが進み、わたしはたくさん書類を書いて、そこそこハートウォーミングな部署に暖かく送り出され(送別会まで開いていただけて)、今年最後の1ヶ月だけ違う職場で働いた。今はまだ、明日から前職の仕事をしろと言われればしっかりと手は動くだろうが、1年経てばもうダメだろう。そうなったとしてもわたしは確かにそこで働いていたのである。そうやって、終わらせて、残して、を繰り返すことがまさしく「事実」の積み重ねである。

 「7年前の曲」となった『恋』がイヤホンから流れてきた。「意味なんかないさ暮らしがあるだけ/ただ腹を空かせて君の元へ帰るんだ」と平匡さんが言うている。こんな詞を書く源さんが、母親に「あんたは生活を大事にしないから」という旨のことを言われていたというエピソードが忘れられない。(出典:『そして生活はつづく』)

 ネガティブを愛するというよりも無為に希望を見出す歌詞を書く人、最近はそういう捉え方をしていて、27歳、少しずつ人生の体感時間をつかめてきたわたしにとっては、そう言ってくれれば世界が輝いて見えますよ!ということをずっと歌い続けてくれるような、そんな人が星野源という人です。この人の文章を久々に読みたいと思った。

幼い頃の記憶/今夜食べたいもの/何もかもが違う/なのになぜそばにいたいの/他人だけにあるもの

不思議/星野源

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