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#創作大賞2023 AIの瞳に恋してる 第5話

昨晩は飲み過ぎてしまったようだ。目を再び閉じると、ゆっくりと地面が回転しているような浮遊感に見舞われ、頭の奥が痛む。目じりを人差し指で触るとカサカサと乾いた音がする。泣いていたのだろうか。

「ねぇ、アイ?大丈夫?」

部屋の遠くから声が聞こえる。まだ、体を起こしてその声の主を確認する元気はない。

「シェイン?ありがとう。」

「おはよう。ゆうべはずいぶんとおたのしみでしたね。」

「…うん、でも、今は最悪の気分。」
かすれた声で答えながら、彼女はようやく体を起こして座り込む。

「そりゃあ、あんなに飲んだらね。」
男は笑いながら、枕元に置かれたグラスを指さした。

「ほら、水飲んだら?少しは楽になるから。」

彼女はグラスに手を伸ばし、水を飲む。
冷たい水が喉を潤してくれるが、頭痛は依然として治まらない。

「昨晩、何があったっけ?あんまり覚えてないんだけど…」
彼女は額に手を当てながら、ぼんやりと昨夜の出来事を思い出そうとする。

「最初のバーで飲んだ後、俺は今日朝イチでマーケットに行く予定があるからって、一旦別れたところまでは覚えてる?」

「えぇ、何となく。」

「で、君は四番街で降ろしてくれって言うからそこまで送ってさ。」

「家に帰って、こないだの量子記憶の解析をやってたら、思ったよりのめり込んでしまって、すっかり夜遅くなっちゃったんだ。で、もう数時間でマーケットに行かないといけないけど、頭は興奮してて寝付けそうにないし、どうしようかななんて思っていたところに、君から連絡があったんだよ。モニタ越しに見えた君は、大分酔っているようだったし、ぼろぼろと泣いていたような感じに見えた。で、どうしたの?と聞いたら、そこでプツンと映像が切れた。それから、慌てて着信があったエリアをハックして、君を追いかけたんだ。で、四番街の路地の端で座って、項垂れる君を見つけて、乗せて、ここまでやってきて、今に至るって感じだね。どう、思い出してきた?」

「全く覚えてないわね。でも、助けてくれてありがとうね。シェイン。」

「一つだけ、覚えているのは―――私、夢を見ていたの。」

「へぇ、どんな夢だったの?」

「子供部屋に忘れ去られた人形になった夢。」


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