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各地のユニーク例豊富に――青木辰司『転換するグリーン・ツーリズム:広域連携と自立をめざして』(学芸出版社、2010年)評

80年代以降、環境破壊や行き過ぎた商業化など、マス・ツーリズムの弊害が世界的に問題視されるようになり、それへの反省から、オルタナティヴ・ツーリズム(大衆観光に代わる新しい観光)への期待が増した。その流れを受け、92年に日本で提起されたのがグリーン・ツーリズムである。

グリーン・ツーリズムとは、都市の人びとが農村に滞在しつつ行う余暇活動のこと。目的は、都市と農村の対等かつ持続的な交流とそれを通じた地域づくりにある。当初、輸入概念の有効性にさまざまな疑問がもたれたグリーン・ツーリズムであったが、導入から20年、西欧型のそれとは異なる特殊日本的な実践が各地で豊かに花開きつつある。本書は、そうした「日本型グリーン・ツーリズム」を自ら牽引し続けてきた山形市出身の社会学者(東洋大学教授)による、運動の中間報告である。

①社会的自己実現型(農家民宿や農村民泊、農家レストラン)、②労働貢献型(農山漁村型ワーキングホリデー)、③学習型(ツーリズム大学)、④教育体験型(修学旅行や教育体験旅行)、⑤資源活用型(滞在型市民農園や廃校・空き家・古民家活用)、⑥人間福祉型(癒しやヘルス・ツーリズム)など、多様な展開を見せる「日本型グリーン・ツーリズム」。だが、課題も明確になってきたと著者は言う。

20年を経て、一定程度の量が確保できた現在、課題は、農村地域における交流ホスピタリティの質の向上と確保にあるという。それには、品質評価支援システムの構築が急務だが、そうした中間支援の仕事は権限を縮小させていく行政機関ではなく、NPOなどが担っていかなくてはならない。しかし、NPO業界では資金難や人材不足が常態化している、という難問。

ではどうするか。答えはそれぞれの地域が実践を通じて模索していくしかない。とはいうものも、私たちには心強い助けがある。失敗例も成功例も含め、各地のユニークな実践やアイディアの事例が本書には豊富に詰め込まれている。本書をガイドに、私たち自身に固有の実践を始めよう。(了)

※『山形新聞』2010年09月12日 掲載

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