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「財布」に関する骨太の哲学――北沢栄『亡国予算 闇に消えた「特別会計」』(実業之日本社、2009年)評

著者は、本紙文化欄「思考の現場から」でもおなじみのジャーナリスト。『公益法人 隠された官の聖域』『官僚社会主義 日本を食い物にする自己増殖システム』『静かな暴走 独立行政法人』等の著書がある。現代日本の官僚制が抱える諸問題やそれに対する官製「改革」の実情について、市民目線から丁寧に追いかけ記述してきた著者が、今回新たに挑んだ対象が「特別会計」である。

特別会計とは、外交や防衛、教育など国の基本的経費を賄う一般会計とは別に設けられ、特別の必要(例えば、道路・空港整備、年金管理、財政投融資など)によって区分経理されている会計のこと。現時点では21の特別会計が存在し、ガソリン税などの目的税、保険料などを財源に特定の事業を実施している。著者の試算では、その資金規模は一般会計80数兆円の約5倍にあたる。ところが、その存在や実態はさほど国民に知られていない。

この無知には幾つかの問題がある。第一に、一般会計の何倍にも及ぶ予算が、国会やメディア、世論によるチェックを経ずに運用されている点。第二に、特別会計を所管する府省庁がそれを自らの裁量で増量させ、資金不足の一般会計を傍目に、潤沢な資金を積立金として蓄積している点。第三に、それらを財源とした府省庁の天下り先培養(公益法人や独立行政法人)や採算無視の官製事業(例えば、「グリーンピア」「私のしごと館」)が横行している点。要は、「市民の財布」であるべき予算(の膨大な部分)が、「官の財布」として官僚たちに私物化されているということである。

限界をとうに超えた財政の逼迫から特別会計が注目を浴び、それが昨今の「霞ヶ関埋蔵金」の議論につながっている。本書もまたそうした流れに棹差すものだ。だが本書には、一過性の関心にとどまらない、そもそも私たちは予算=「市民の財布」をどう考えるべきかという問いに関する骨太の哲学が存在する。来るべき私たちの「市民革命」のために、本書は、その啓蒙の書として読まれるべきであろう。(了)

※『山形新聞』2009年06月21日 掲載

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