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景観つくる過程 興味深く――片山和俊・林寛治・住吉洋二『まちづくり解剖図鑑』(エクスナレッジ、2019年)評

取材や調査で訪れるたび、落ち着きのあるオシャレな街並み、改めてゆっくり滞在し観光してみたいとぼんやり思っていた。山形県北端、秋田との県境に位置する山中の盆地にその街・金山町はある。その中心地区の統一感ある美しさは、景観まちづくりの先進的なとりくみを経てうみだされてきたものだ。

金山町の景観まちづくりのエンジンとなっているのは「金山町住宅建築コンクール」と「風景と調和した街並み景観条例」という二つの政策である。前者によって、地場産材の金山杉を用いた地元の大工・職人の活動が活発化し、後者によって、金山住宅の統一感ある外観や美しい街並みがつくりだされる。これらを両輪に展開されてきたのが「街並み景観づくり100年運動」なのだった。

本書は、そうした金山町のまちづくりの歴史と現在、そしてこれからを、計画に関わってきた三人の建築家が改めてふりかえり、その過程をわかりやすく開示したものだ(設計の意図やそこにある思想、参照した国内外の事例なども併せて紹介されている)。上記の「100年運動」開始は1984年で、もうすぐその折り返し地点。本書は運動の中間報告であるとともに、その中間総括でもある。

興味深いのは、景観まちづくりのプロセスがどのように進んでいくものなのか、実際に関与してきた当事者たちが豊富なエピソードとともに明らかにしている点。史料的価値も大きい。例えば、最初のマスタープランが街の動き――スプロール[虫食い]化――に対抗すべく、途中で修正されつつ計画が進んでいった過程などが明らかになっている。街は荒ぶる生き物で、まちづくりはそれを飼いならしていく仕事でもあるのだということがわかっておもしろい。

一方で、本書からはこの美しい街で暮らす人びとの多彩な声や生活の匂いがさほど感じられない。行政と建築家だけがまちづくりの担い手という時代ではもはやない。それは今後50年の課題と受け止めよ、ということだろうか。いずれにせよ、本書の続きは読者それぞれの手に委ねられている。(了)

※『山形新聞』2020年02月19日 掲載


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