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幼馴染に「いつかこの手で殺してあげるからね」って言われた件

『いつか、この手で殺してあげるからね』

 小さい頃、いつだったか。
 クーレに言われたことがある。
 あれから何年も経過したがまだクーレに殺される気配はない。
 きっかけはなんだったか、俺が彼女の尻尾を踏んだのだろう。
 もちろん精神的な意味であってヒューマンの彼女には尻尾は生えていない。
 いや、裸のお尻を見たことがないので断言できないが。
 殺されそうになるほど怒らせた記憶がないのも、よくわからない。

  ◇◇◇

 今日も冒険者の仕事をして家に帰る。
 幼馴染のクーレと同居生活をしていた。
 殺される宣言があったのに、仲良くやっている。
 少なくとも表面上は。
 クーレは女の子で16歳、俺と同い年だ。
 二人で故郷の村を出てきてパーティーを組んでいる。
 一緒に家を借りれば家賃は半分で済む。
 俺たちは一種の相互依存だった。
 俺には彼女が必要だし、彼女にも俺が必要なのだ。

『ドラン、男女で同居? 同棲じゃねえのか、馬鹿か?』

 こう言われることもよくある。
 昔から一緒にいるのが当たり前すぎて俺はよくわからなくなってしまった。

 確かに好きだと思えば好きだ。
 ただ彼女も同じように思っているかはわからない。
 男女に友情はないというが、知ったことではないし。

「ドラン、夕ご飯はオークの焼肉でいい?」
「ああ、いいよ、さんきゅ、クーレ」
「ううん、一緒にやれば一人分も二人分も違わないし」
「そ、そっか」

 こうして美味いご飯を食べて寝る。
 オークはクエストのついでに狩ってきたもので、調達が容易なのでよく口にする。
 昼間のクエストで疲れている体は夜にはぐっすりだ。

 毎日同じように冒険者ギルドのクエストをこなす。
 殺すとまで言われた俺がなぜ彼女に愛想を尽かされないのか、それだけは謎だ。

 そんなある日、お触れが出た。

【冒険者ドランを勇者に認定する。聖女、賢者、魔法使い、ポーターを連れて魔王退治に向かうように】

 そこにはクーレの名はなかった。
 俺はそれを一緒に連れてはいけないと解釈した。
 足手まといとまではいわないが、クーレは俺のサポートがメインで、戦闘にはあまり向いていない。

「ドラン、待って置いていかないで!!」
「クーレを危険に晒すわけにはいかないよ」
「今までずっとパートナーだったじゃない」
「まぁそうだけど、そのように命令は受けていないし」
「連れて行ってはいけないとも書いてないわ」

 クーレの言うことももっともだけど。

「相手は魔王だ。死ぬかもしれない。連れていけない」
「そんな……」
「俺のこと殺したいんだろ。ちょうどいい」

 バチン。

 クーレからビンタンが飛んできた。
 俺は唖然とした。よくわからない。
 次の瞬間にはクーレが涙をポロポロ零して俺に抱きついてくる。
 ちょっと女の子の甘い匂いがして俺は場違いにもドキドキしていた。

「違うの! 全然なんにもわかってない!」
「なんだ、死んでほしいほど憎んでるんじゃ」
「バカ言わないでよ。ドランのアホ、マヌケ」

 ポコポコと胸を叩いてくるがもちろん鎧の俺には痛くもない。

「もう一回、言うわよ」
「あ、ああ」
「いつか、この手で殺してあげるからね、絶対だよ」
「お、おう」

 どこにその殺意があるのかわからない。
 彼女の顔はまるで恋する乙女みたいに真っ赤だった。

「私が殺すの。誰にも殺させないんだから」

 あ、ああ、そういう意味なのか。
 つまり、私のモノってことか。
 あれ、それってどっちかというと愛の告白みたいだな。

 そこでフラッシュバックする。

 9歳、二人で村の冒険者見習いをして少しした頃だ。
 俺は油断からデビル・スパイダーの神経毒にやられ、動けなくなり崩れ落ちた。
 俺たちの目の前にはデビル・スパイダーが食べようとにじり寄って来る。

「クーレ、に、逃げろ」

 もちろん足手まといの俺は餌として置いていくしかない。
 絶体絶命のピンチだか、クーレ一人なら逃げられる。

「やだ! 絶対逃げないもん」
「俺はもう無理だ、クーレ」

 果敢にもクーレはスパイダーに挑み、八本ある足からの攻撃をギリギリでさばいていた。
 しかし勝てる見込みはほぼない。

「ドランは私のなの! 誰にも渡さない!」

 ボロボロになりながらクーレは一人必死に戦い続けた。
 ついにスパイダーが根負けし、逃げていく。
 俺は毒に侵され意識朦朧としていた。

「いつか、この手で殺してあげるからね」

 そう言って俺にキスをした。
 クーレに引きずられて村まで戻り、二人は一命を取り留めた。

 なんで忘れていたんだろう。
 あの時から、クーレは俺の事をずっと思い続けていたんだ。
 そっけない振りをして、ずっと俺が振り向いてくれるのを。
 それで村から出てくるときもくっついてきたし、ずっとそばに一番近くにいてくれた。

「俺が、俺がバカでした、クーレ、愛してる」
「ちょっと、ドラン、バカ、ほんと、バカよ」
「うん」
「ずっと、待ってたんだから……」
「そうだな、もう離さない。一緒に行ってくれるか?」
「もちろん」
「魔王退治だぞ」
「死ぬときは一緒にだからね。私がドランにトドメを刺してあげる」
「そん時は頼むよ」
「うん」

 こうして俺たちは聖女や女賢者、女魔法使い、女ポーター全員が白い目で見る中、ラブラブで旅立った。

「なんでみんな女の子、それも美少女ばっかり集めたのよ、このロクデナシ」
「いや、俺が選んだわけじゃないし」
「私のものなの! 誰にもドランを殺させないんだからね!」
「仲間だろ。なんで殺しに掛かってくるんだよ。それはお前だけだ」
「やっやっぱり、私だけなんだ、うれしい」

 魔王退治は前途多難だ。


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