短編小説:自動販売機の日常
僕はとある住宅地の自販機さ。
ああ、おじさん。ん?
古い五百円玉は使えないんだ。
それ、ひょっとして改造五百ウォン硬貨じゃないかい。やっぱりそうだ。まだあったんだね。それは違法なんだ。うん。
でも大丈夫。今は旧五百円玉が使えない代わりに、違法硬貨も受け付けなくなったから。
新五百円硬貨を使って買ってくれな。
ではまたこんど。
■
今日は暑いな。
女子高生だ。ヒャッハー。
おおう、冷たいレモンソーダかい。こういう日には最高だな。
さいわいツイてるぜ。
可哀想なことに昨日買った子なんて、入れたばかりでまだ冷えてなかったんだ。
ああ、今日はばっちり冷やしておいたから、グビグビいってくれな。
■
お姉さん、大丈夫かい?
買ってくれようとしたんだけど、お財布から小銭をばらまいてしまったようだ。
僕のすぐ前で硬貨を拾っているんだ。
お尻がむちむちだな、若い子はええな。
なんとか拾い終えたようだ。よかった。
アイスコーヒーかい。
お仕事の合間みたいだ。お疲れ様です。
■
お子さんがきた。
けど悪いな、それはゲームセンターのコインだよ。百円玉ではないんだ。
すまない。それでは買えないよ。
お母さん。笑って見てないで、お金出してください。
そそ、よろしく。
あ、うん。一番上の段、届かないよね。
大丈夫。下にも代わりのボタンがあるんだ。今は親切だよね。
そそ、そこだ。
番号をよく見て、隣と間違えないように選ぶんだ。
よし、それだ。ぎゅっとボタンを押してね。
はい。お買い上げ、ありがとうございます。
■
お兄さん、お目が高い。
そそう、それそれ。なんと、自動販売機専用の新作のスープだよ。
それはコンビニとかスーパー、ドラッグストアでも買えないんだよ。
あと多分、しばらくすると買えなくなると思うから。今が買いなんだ。
なんでかというとね、新作だけど、あまり買ってくれる人が実はいなくてね、うん。商品の入れ替えで、なくなると思う。
お兄さん好き。お買い上げありがとうございます。
こういう商品にも、注目してくれるから好き。
■
大学生のお兄さん、こんばんは。また会いましたね。
この頃、夜中によく来るようになったけど、レポート進んでないのかな。
あんまり根を詰めないで、ほどほどに頑張ってね。
僕の声は聞こえないと思うけど、陰ながら応援しているよ。
いつもアイスミルクコーヒーだよね。コーヒーの中ではこれが一番容量が多くてコスパいいもんね。
まあ貧乏症といえなくもないけど、大学生だものね、贅沢はできないか。
ではまた。
■
今日は寒いね。雪が舞っているね。
さっきも女の子がホットポタージュを買ってくれたよ。
今度はおじさんがホットコーヒーをお買い上げだ。
ありがとうございます。
コンビニまでちょっとだけ遠いもんね。こんなに寒いと、コンビニまで行くのだって大変だ。
■
ああ、また虫が飛んできた。
最近、暑くなったよね。そうしたら、ほら、虫もたくさん出てくるようになった。
夜、光っていると、すごい虫くる。また虫集まってきた。
うん。だから、はやく、決めてください。
今の自動販売機は夜ずっと光っていなくて、お金を入れたら光るんだ。
だから、指を右に左にかなり迷っているみたいだけど、ほらそろそろ決めてくださいな。
よし、決まったかな。
お買い上げありがとうございます。
ではまた、電気を消して、静かにしてますね。
■
おじいちゃん。お金が足りないや。
昔はうん、たしかに百円だったね。でも今は百三十円なんだ。
だから十円玉を追加でいれてね。
ほら値段もちゃんと書いてあるでしょう。
お金が足りない状態でドリンクのボタンを押しても商品は出てこないよ。
お、うん。気がついたみたい。よかったよかった。
ちゃんと買えたね。ありがとうございます。
■
お嬢さん、ごめんなさいね。
メンテナンスと補充の人が作業中だから、今は買えないよ。
もうちょっとだけ待ってほしい。うん。本当にすまない。
メンテの時間なんてほんの少しなのに、なんでそういう時に限って、ちょうど買いたくなるんだろうね。本当に不思議だね。
■
酔っ払いのおじさんかな。
すみませんね。お酒は置いてないんだ。あとお金を入れないと買えないよ。知ってると思うけど。
よりかかってバンバン叩くのは、やめてください。
あと挨拶してくれても、返せないよ。僕はしがない自動販売機だからね。
■
最近、近所の女子中学生が二人、毎日帰りに自動販売機のすぐ前でおしゃべりをしてから帰るようになったよ。
見ているぶんには微笑ましい。ただ、買食い禁止なのか今まで一度も買ってくれたことはないんだ。
前といっても他のお客さんの邪魔にはならないように配慮してくれているからいいんだけどね。
二人の友情はずっと続くといいね。
こうして、自動販売機の僕は、毎日みんなを見守っている。
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