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【短編小説】猫獣人と草原のリンゴの木

 トスタナ王国、王都リベイシュタイン。
 ここにはいろいろな人々が住んでいる。
 今日は猫獣人の冒険者メルルについてだ。

「さあ、今日もリンゴを取りにいくにゃ」

 メルルは王都の城門を通って今日も草原に繰り出す。
 草原には無数の草が生えている。
 多くの冒険者はそのうちの「薬草」を採取してくることを仕事としていた。
 いっぽうのメルルは薬草には目もくれず、一目散に歩いていく。
 向かうのは草原にまばらに生えているリンゴの木だった。

 王都の平原には誰かがリンゴの芯を捨てたのか、ところどころにリンゴの木がある。
 目のいい猫獣人は生えている木の実を遠くから見て、何の木なのか分かるのだ。

 メルルは以前、大きなリュックサックを背負っていたが、今は腰に小さな袋をつけているだけだ。
 リンゴを毎日のように頑張って収穫し貯めたお金で、マジックバッグを購入した。
 これでもっとたくさんのリンゴを取って来れるようになった。

「リンゴの木、見つけたにゃ」

 広い平原に分散して生えているリンゴの木をすべて覚えるほど頭はよくはない。
 しかしいくつかの木は覚えられたのでそこは定期巡回するようになった。
 そうしていつもの木のリンゴを取ってしまうと、目で探して歩く。

 ここの国は一年を通して暖かく、リンゴは一年中木になるので、メルルは年間を通して仕事があった。

 また一つリンゴを取る。
 がぶり。

「美味しぃ」

 新鮮なリンゴは甘くいい匂いがして、みずみずしくとても美味しかった。

「えへへ、これなら高く売れるにゃ」

 お金のことは大事だ。

「にゃははは」

 こうしてリンゴを取る。
 ひとつだけルールを決めていた。それは木からリンゴを採り尽してしまわないこと。
 たまたま近くを通った人、鳥さん、動物さん、リンゴを必要とする人や生き物はいる。だから自分だけのリンゴではない。

 こうしてたくさんのリンゴを収穫したメルルは今日も冒険者ギルドに戻ってくる。

「リンゴ、買取お願いします」
「はい、メルルちゃん。今日もご苦労様」
「えへへ」

 冒険者ギルドのお姉さんにいつもねぎらいの言葉を掛けてもらえる。
 メルルのリンゴは野菜や果物全般が不足気味の王都では人気が高かった。

「はい、今日は三キロと五百グラムね。はい銀貨十五枚ね」
「ありがとうございます」

 無事に銀貨を得ることができた。
 帰りにできたての黒パンを買って帰るのが、メルルの楽しみだ。
 今日もリンゴを収穫してパンが買えていい一日でした。


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