校正:漢字の選び方
小説を、書いていると「漢字を選ぶ」というシーンに遭遇します。
例えば「音楽を『きく』」はどうでしょう。「聞く」「聴く」などがあり、一般的には「聴く」が多いと思います。
大辞林 第三版
きく【聞く・聴く・訊く・利く】
と辞書には項目が載っています。「利く」が入っているのは意外です。「効く」がないですね。
大辞林 第三版
きく【利く・効く】
「効く」で検索したら別の項目がありました。このように一見同じ「きく」でも種類があります。
「話を聞く」を「話を聴く」と書いても大抵はかまいませんが、別の単語である「話を効く」となると漢字の選択の問題ではなく「誤字」と通常は認識されることが多いでしょう。
このように同音異義語、漢字の選択には、それぞれ間違いとされるレベルが異なってきます。
特に注意してほしいのは「その質問はAさんに訊いた」のように質問の際には「訊いた」を使わなければならないと思い込んでいる場合です。これは別に「聞いた」でも全然構わないケースです。「聞く」は他のキクよりも汎用的に使えます。このように、どちらでも構わない場合があるという視点は重要です。
・別の単語扱い、別の漢字
・同じ単語、漢字の明確な使い分け
・同じ単語、漢字の使い分けは曖昧
・同じ単語、漢字の使い分け優劣なし
のように漢字によっても違います。キュレーションサイトなどではこれらのどのレベルの話なのか曖昧なことが多いです。「使い分け」と書かれていても盲目的に信じないほうが賢明です。
作者によって、漢字を細かく使い分けているのか、汎用の漢字で統一してあるのか、こだわりなく混ざって使っているのかなど状況が異なるのです。
校正者が自分のルールをそういう作者ルールよりも優先するのは単なる押し付けになってしまうので、注意しましょう。
小説家になろうなどでは誤字報告機能がありますが、校正者により最も適切だと思う漢字が異なると報告、編集合戦になってしまう恐れもあります。ある程度の許容は必要です。
「訊く」については常用漢字ではないという問題もあります。漢字の選択はなるべく常用漢字を使う派と、細かい使い分けで正しいと思っているものを難しくても使う派などがあります。このあたりまでくると国語に対する宗教、宗派の問題です。
常用漢字問題では「様子を窺う」「パンツを穿く」などにも影響を与えています。「穿」は常用漢字ではないので、小中学校では「穿く」と「履く」の区別を教えません。靴は履く、ズボンは穿くだとされていますが習わないのです。「窺う」「伺う」も同様です。
常用漢字は漢字だけではありません。漢字の「読み」の一覧も掲載されています。よく問題として挙げられるのは「わかる」です。常用漢字では「分かる」のみ掲載されています。他にも「解る」「判る」などがありますが、常用読みではないので、使用がはばかられることが多いです。小説でも作者のスタンスは様々です。
とまあ、漢字を選んで使うというのも、結構大変な作業です。小説を書くときはあばぼばば、って書いてしまいたいのにいちいち細かい漢字まで気を使ってられないですよね。めんどっちいのです。しかし誤字報告、校正の作業ではそうも言ってられないので、世の中大変です。
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