【読み切り】2021年の面白い漫画10選
こんにちは、タキです。
今年は読み切り漫画を100作以上読んだと思います。その中でも個人的に好きだった作品を感想付きで紹介します。
■霊掃業の洗井くん(静脈/肥田野健太郎)
最初の4ページで既にピンチ。早くて楽しい。敵の造形が良い。人間の原型から崩れず歪んでいることが、奇妙さを出していて怖い。幽霊だけじゃなく、人間も怖い。殺人しながらも日常を送る一線を越えてしまった人間たちは、どこかで社会の規範よりも、マイルールを優先してしまった人間なのだと思う。それ故の圧。一方的なコミュニケーションも良かった。
14体の敵との戦いを一気に省略する手際が見事だった。それでいて、ヒロイン祓沢さんの含みのある表情などに時間を割くことで、言葉にされていない彼女のキャラの余白が浮かび上がり、このキャラのこともっと知りたい!連載で読みてー!という気持ちになった。
「オムツ」ネタは賛否両論ありそうだけど、好き。我慢できない感情の表現でもあるし、熱意の比喩にもなるし、なによりギャグになる。オムツを履いて鏡に向かって真剣な顔をするシーンがシリアスギャグで面白かった。
最後の「自分に合ったオムツ」というセリフも、彼自身が「収まる場所」が見つかった、という意味にもとれて良かった。
■山田夢太郎、外へ行く(畠山達也/修行コウタ)
閲覧注意。ネタバレせずに読んだほうが良い作品。ただし悪趣味。責任は取れません。
この作品のギャグが好きだ。最近の漫才のようにボケ量が多い。ツッコミ不在で成り立つこの手のギャグに私は弱い。
マクドナルドのハンバーガーがこんなに美味しかったのか!という衝撃がもとで「マクドナルドに連続で行く」ことを絵だけで示す。全体的に説明が一切ないボケで、読者に委ねられていて、読みやすいコメディ。
それを支える作品の雰囲気も独特だった。主人公の山田夢太郎の部屋にはられていた「生きる」という意思の不穏さ。こういった危ういものを安定させたくて人は笑いたくなるのかもしれない。
そして、夜。
作品を覆う奇妙な違和感の正体が明らかになる。主人公が見ていた明るい世界から一転。暗い世界が姿を表す。7年の引きこもりは、現実の変化を良くも悪くも映し出す。
言葉は通じず「鳴き声」と処理される。しかしそこに敬意はある。マクドナルドの「いただきます」シーンが再び脳裏に浮かぶ。
※夢太郎が気にいるのはマクドナルドではなく、もっと肉肉しいもの(サラダチキンみたいな)だと更にヒエッとなったかも
ミステリィ作品を読んだときのような楽しさ・驚きがある作品だった。ギャグも面白いし、展開も面白い。絵もキレイ。「救いと倫理のジャンプ調味料」小さじ少々かかった次回作をぜひ読みたい。
■勇者先生 (和邇)
センスが良いってこういうことなんだ…とわかるマンガ。最初の戦闘の緊張感からの緩和で一気に掴まれる。物語をひっぱる主人公の恋心も「下だけでいいですよ名前呼ぶとき」という少ないセリフだけで最初にわかる。ギャグも小気味よく描かれて、子どもたちの無邪気な世界・日常が伝わる。過不足なく伝える技術がうますぎる。
そして第2幕。学校の正体、先生の動かない体の意味、彼らの訓練の意味が明らかになる。仲間たちが死んでいくスピード感に驚く。死にいく人々の「名前」が呼ばれることで、たしかに実在するクラスメイトだということがわかってしまう。こういうの辛いよね。
主人公が多くを語らず、表情だけのコマがあるのも特徴。映画のような時間経過で、悲しみや戸惑いが言葉よりも伝わる。最後に主人公自身の通過儀礼と関係の変化が切なく描かれて終わるのも読み切り的に最高。
短いページ数故に、強さ・戦いの説得力がないのと、戦いのシーンのメリハリ(カメラワーク・コマの使い方)が少し物足りなかった。本作の主眼はそこではないんだけど、「ジャンプマンガ」になるには、わかりやすくウケるポイントとして必須なのかな、とも思ったりなんにせよ、才能がすごい。この作者は傑作を生み出してくれそうで、楽しみ。
■死体と、1スーにもならない (遥川潤)
タイトルが面白い。絵本風の押絵もセンスがある。不死の設定の新しい使い方も良い。
狂った描写も続きの気になるオチの付け方も好き。こういう作者の好みが出る作品は、新しさがあって、もっと読みたくなる。
面白い分、「作者の頭の中の情報(伝えたいこと)」がすべて読者に伝わっているのかな、というのは少し気になった。タイトル然り。というか、自分は全部理解できていない気がするのだ。
暗殺教室の松井先生が言っていた「防御力」のことを思い出す。
https://jump-manga-school.hatenablog.com/entry/06
「狂気的なキャラとはなにか?」というのも改めて考えてしまった。 理解できる一面がありながらも、絶対に覗けない心の暗闇を感じる存在な気がする。
そう考えると、作中の2人は読み切り & 説明も多い分「わかってしまう」ことが多いので狂気の一歩手前感。説明せずに、絵だけでその内面を表す大コマがあったら、もっとゾクゾクする作品になりそう。連載で読んでみたい。
■遊星Xからの侵略者(S級エスキモー)
小さな世界、半径3mの世界の物語は心揺さぶるなあ。こういうのが読みたかった!系の作品。
主人公が夏の夜に厚着をして映画世界にひたり、何者かであろうとするシーンが特に良かった。他者の目を意識し、絶妙な羞恥心がありながらも、やりたいんだという衝動が止まらない。中学生ってこういうところあるよね。
何かが起こりそうな夜。タイトルから推測する「SFものかな」という想像を裏切るのが見事。エイリアンとはなにか?宇宙人というよりも異邦人と訳したい。理解不能な感じ・断絶は最初からしっかり描かれている。「家森」のクラスメイトを値踏みし、一方的に評価する目線が怖かった。
主人公はジワリジワリに気づく。私にとっての小さくて、全てが満ち満ちた世界が「侵略」されていると。この周囲の世界がまるでオセロのように反転していく様子がうまい。ページのどこに黒背景コマを置くのかという漫画描写、主人公主観での世界が狭まる感じ。一気に感情移入して心臓が痛くなった。
そして親友との決定的な断絶。ユキの表情は下半分のみ描かれていて、主人公が相手の目を見られないことが伝わった。この描写は伝わりやすくて良いんだけど、もっと邪悪なものも見たかった。例えば、映画モチーフで「別の星の人」に見える主観を正面から描くとか。
そして時間は進む。季節は冬。憧れの厚着を自然に着られる季節。ここに来て主人公の拠り所に戻るのもうまい。最後の主人公の決定がもっと「能動的」だったら良かったなとも思う。格好良い逃げ方というか、戦略としての逃げ方みたいなところが成立していたら、後味が違っただろう。心に残る読み切りだった。
■ナインメロウファミリー(童村)
R18気味注意。雰囲気が好き。絵がシンプルでコマも大きくテキストも少ない。基本的な情報量が少ない分、モノローグが多くても読みやすい。バランスが良いのだと思う。
逆に「言葉」にしない感情描写ももっと読みたいな、と思った。言語化されない人の複雑な感情というものを表せるのがマンガの良さでもあるから。
しっかりとフリとオチができていて、うまい畳み方。ただ、扱う性の話・生死の話が物語を成り立たせるための手段でしかないのがちょっと物足りないかも。代わりに死んだ人はどうなのか?とか。あと、ヒロイン側の再生の物語も同時に読んでみたかったな。
■4分間の終わりに(平浜矢陸)
絵が超うまいので死神が怖い。と思いきや、キャラ設定が和む。動物と遊ぶことを自分に許可する、というあたりが本業(殺し)とのギャップを浮かび上がらせる。仕事がすべてな冷酷非道の存在ではない。だから、感情移入して読める。ヒロインに愛着を持ってしまった死神の表情もうまい。切なさは目に宿る。
映画『レオン』よろしく、殺し屋のヒロインが「常に植物を持ち歩く」とかあっても個人的フェチに合致してた。キャラクターに愛着あるアイテムがあると、なぜか人間味が出るメソッド。流れ者が唯一大切にしている道具があることで、お菓子屋さんを開いたときの絵も映えそうだし、爆破後の凄惨さを示すのにも使える。そして、最後に唯一残った存在である死神の意味も増す。
全体的な雰囲気と読後感含めて好みだった。すごい良い物語の流れで、別の展開も色々と想像できる膨らみがある良い作品。
個人的にぼんやり妄想したのは、例えば、ヒロインが自首するときに「自分は普通の暮らしを送ってはいけないのだ」という感情になるとか。あと、最後の共闘シーンが死神vsヒロインの構図を引きずるとか。「4分間」というタイトルだし「ヒロインが昔は逃げれた4分をギリギリ逃げられなくなった(相手に殺されても良い)」話か、「4分を過ぎても、死神は規則を無視して行動を続ける。そして、ヒロインを殺す。それは優しさ・愛情からだった」みたいな話とか。
■二番目の運命(幌山あき)
導入部分が100点すぎた。「人が恋に落ちるとどうなるか?」という質問が1ページ目にあったら、続きを読まざるを得ない。スピーディーな告白。さらには幽霊が出てくるという意外性の畳み掛け。この時点で、期待値がマックスになる。作者がスゴい。
そこからのコメディ展開も続きをつい読んでしまう魅力がある。「心臓剛毛かよ」みたいなツッコミギャグも好き。もっとこんな感じのギャグが、前半の説明パートであると嬉しかった。
個人的には「男性キャラの闇がところどころ見えるタイプのマンガ」が好みなので、デート中もどこか浮かない顔をしていたり、安請け合いの未来の話はしない、みたいなキャラ造形だったら、ややサスペンスが生まれて嗜好に刺さったかも。「ずっと愛してる」と言ってしまった呪いの話が男性キャラにとってのキーだから、それが彼自身の性格・生き方にも大きな影を落としている…みたいな描写も見てみたかった。
幽霊元カノが消えるところの絵の表現力もお見事。花吹雪とともに消えゆく絵はマンガならではの描写で素敵。こういう感性って、論理ではたどり着けない才能を感じる。
■ミーシア(吉野マト)
チェンソーマンの藤本タツキ先生的な絵柄、テンポ感、言葉選びが良い。映画のような表情だけのコマでの時間表現、途中省略で展開を一気に進ませるのがうまい。人間同士のやり取りの「無意味だけど、実際にありそうな会話感」や「スラスラ発言できない感じ」もうまい。
それができるのはセンスの良さと藤本タツキ先生のメソッドを習得しているのもあるだろうし、読み切りの贅沢なページ数だからっていうのもありそう。連載になったときのページ数でも、このテンポ感というか緩急を失わずに描いてくれたら嬉しい。
男性キャラの心理がもっと見えても良かった気もする。殺人シーンに出くわすたびに、あの日の輝きある目でその現場を見るとか。対比して、主人公は徐々に苦痛な顔になっていくような時間経過があったら、この二人が根本のところで違う存在なのだというのが際立つ。
「血で人を殺す」という設定が最後にしっかり活きてくるのも見事。物語的に意味のあるキスシーンの絵も良い。ここに過去の回想コマがフラッシュバック的に挟まれたら涙腺にきていた。
物語最後の転生によって救いがあるけど、他の救いのシーンはあり得たのか?というのも考えてしまう。たとえば、最後のバトルシーン。男性キャラが「殺しリスト」を盗み見て主人公を襲う。主人公は、親しい人を殺した記憶のせいで、最後の最後に反撃の手を緩めてしまう。そして自死を選び、男性キャラがどんな顔をするのかを想像しながら死にいく、とか。
漫画というのは「キャラクターの変化」を描く物語なのか「運命を俯瞰的に」描く物語なのか、2種類あるな、とも思った。
■クローゼットガール(朱井よしお)
これは、やられた…。という感じの作品。ネタバレなしには語れないので、先に作品を読んでください。
「ズキズキ」というオノマトペもマンガだから成り立つよな、と再認識させられる。お腹を抱えるコマは兄のことを思うとき。お風呂が一人なのも、露見しないため。とにかく細々とした表現がすべて良くできた伏線。
この作品が扱っている題材と作品の演出がしっかりと重なっている点もすごい。読者が見る「普通の日常」の中に、問題が隠れていた。真相を教えてもらうまで、わからなかった。オチを知ることで、日常の見方に対しても疑心を抱かせる。先入観で世界を見ている自分に気づく。
本人はクローゼットよろしく閉じこもり、SOSを求めることができない。一つの考えに縛られ、視野が狭くなってしまうのも、クローゼットの隙間から覗く行為と重なる(意図的かはさておき)。
■その他
感想書くのに疲れてきたので、他にも読み切りをまとめて紹介。
①皇の器(織部匡)
遠い昔『仁』という国に生まれた双子の皇子。二人をめぐる数奇な運命。
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496545162575
②宗教的プログラムの構造と解釈(佐武原)
「神様にならないか?」、とカフェでの突然の勧誘。金につられて恐る恐る話を聞くと、頼まれたのは神様アバターの「中の人」で…!?
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496358577604
③キスしたい男(タイザン5)
アンジーにキスしてもらう事を目標にバイトに励む主人公・レオ。ついに目標の100万円を貯め、アメリカに渡ろうとする彼のもとに、中学の同級生のニコがやってきて…!?
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496399711731
④ルックバック(藤本タツキ)
学生新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられるが…!?
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496401369355
言わずもがな。今年一番の話題作でしょう。無料で全編読める期間は終わっているっぽいので、続きは単行本ですね。
2022年も読み切り読みます。
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