「よくぞ今まで生きていてくれた」

国際的な女性団体であるソロプティミストの、教育と職業訓練を支援する「夢を生きる」賞の2020年度選考がさる4月にあり、外部審査員として参加した。そのときの選考講評を紹介したい。

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このたび、上野千鶴子・東京大学名誉教授、リジョン役員やプログラム委員会の 7 名の内部審査員の皆様ととともに「夢を生きる」賞の第 2 次審査委員をさせていただいた国連 UNHCR協会の滝澤三郎です。国連UNHCR協会に対しては、東リジョンより難民の女性と女児のために毎年支援をいただいております。まずそのことにお礼を述べさせていただきます。また、本来はこの講評は東リジョン大会の表彰式でお伝えすべきものですが、コロナ禍による大会中止のため、書面で述べさせていただきます。   

全体的講評

今回の「夢を生きる」賞には、51 名の方が各地のクラブを通して応募され、一次審査のあと、29 名が第 2 次審査の対象となりました。応募された女性たちは全員がシングルマ ザーです。多くの方が子供時代に貧しい生活の中で親による虐待やネグレクトに遇ったり、学校でいじめられたり、なかには養護施設での生活を経験された方もいます。結婚したものの、自堕落な夫による暴力に悩み、子供の将来のために離婚する。しかし今の日本社会ではシングルマザーになるとすぐに生活に困窮します。公的保護にたどりつけても、それを冷たく見る社会の目。不幸と不運が波のように押し寄せてくる様子を記した応募書類はどれも痛切で涙なしには読めないものでした。ある応募者について、「よくぞいままで生きていてくれた」と推薦者がコメントされていましたが、それは多くの応募者について言えることかと思います。
そんな中でも、応募された女性たちは、なんとしても経済的に自立したい、子供を立派に育てたい、できれば人のためになる仕事をしたい、と決意し、看護や介護の専門学校などに入学し、不安定で長時間の仕事に耐えつつ、寝る時間をも削って学んでおられます。つらい過去を持つからこそ人の悲しみや苦しみに共感できるのでしょうか、「誰かのために役立ちたい」と望む姿には感動をおぼえます。

入賞されたお二人

今回1位になったA子さん。12歳で養護施設を退園し、再婚した母親と義理の父から暴力を受け、家出をして住み込みで働きましたが、そこでもひどい扱いを受ける。そんな中で子供を授かり、公的保護を受けざるを得ませんでした。自立したくとも学歴やキャリア経験がないため仕事が見つからず、将来への恐怖に襲われて「死にたい」とすら思われたそうです。それでも自立するための勉学への思いはやみ難く、「高校に行きたい」と 3 年間にわたって行政に訴え続けた結果、通信制高校進学が認められました。働きながら、子育てをしながらの高校生活の中で視野が広がり、さらに資格を取得して、困難な状況にいる女性の自立を支援したい、と一途に訴える姿に動かされ、本来は保護世帯には許されない保育専門学校への進学も認められました。A子さんは、ひとり親支援制度をめぐる「行政の壁」を打ち破ったパイオニアとなったのです。

実は、僅差で2位になったB子さんも、極度の困難と辛さを一人で乗り越えてきました。お二人とも過酷な人生を過ごしてきたにも関わらず、またはそれゆえに、強い学びへの意欲と、人のために何かできる職業につきたいという希望を持たれています。A子さんやB子さん、そして応募されたほとんどの方が、自身の不遇を他者のせいにせず、自身の努力で克服するだけでなく、人を助け社会を変えることに昇華されていることに、女性の持つ柔軟性と温かさを感じます。また、人は励ましと支援によって大きく変われるということにも気づかされます。

だらしない男たち

それにつけても、応募書類から垣間見える、女性を路頭に迷わせて恥じない男たちの無責任さとだらしなさには唖然とします。そんな男性が幅を利かすがゆえに、日本は 「ジェンダー格差指数」が世界 153 カ国のうち 121 位にとどまっているのでしょう。もちろん、日本には最低限の社会保障の制度はありますが、それすら知らない女性、様々な困難を抱えてそこにたどり着けず、社会の片隅でただ逆境に耐えている女性がたくさんいるはずです。

ソロプティミストの役割

ソロプチミストは、そのような社会の底辺で行き場を失っていた女性を探し出して、寄り添い、はげまし、自立への機会を与えてきました。厳しい境遇の中で自立のために奮闘する女性たちには敬服するしかありませんが、彼女たちに一歩前に出る勇気を起こさせたのは、ソロプチミストの皆様があってこそでしょう。
新型コロナの蔓延は、世界的には難民の女性や女子を襲い、日本社会でも弱い人たちを追い詰めます。シングルマザーはその中でも一番弱い立場にいます。こんな時こそ、社会防衛の一角をなすともいえるソロプチミストの、もはや人道的ともいえる役割が大きくなるということができましょう。
これからのソロプチミストの活動が、「夢を生きる」賞などを通して広く知られ、より広がっていくことを確信して、私の講評の結びとさせていただきます。

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