日本の難民政策は変わるか?

ロシア軍の侵略に対してウクライナ軍が国家生存をかけて抵抗しているウクライナ戦争は、世界に衝撃を与えている。住民の虐殺など戦争犯罪を伴う侵略を逃れて500万人がポーランドやモルドバに避難している。近隣受入国の負担は大きい。
 
政府と民間の動き
 今回の事態に対する日本の対応は速い。政府は、国際秩序を武力で変更しようとするロシアにG7と連帯して対抗する姿勢を明確にし、厳しい経済制裁の他2億ドルの人道支援と3億ドルの経済支援を早々と決めた。

 ウクライナからの避難民の受け入れにも積極的で、首相の指示のもと各省庁が住居、就労、教育などの面での手厚い支援を実施している。難民問題で首相自らが指示を下すのは異例だ。

 4月末までに700人近い避難民が受け入れられたが、在留資格は就労可能な「特定活動」であり、「難民」ではない。1951年の難民条約は「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、または政治的意見」という5つの理由で迫害を受けるおそれがある者を難民と認めており、今回のように戦争を理由とするものは、それだけでは難民としないからだ。ただ、避難民は難民認定申請をすることができるので、いずれ難民と認められる者も出るかもしれない。

 この対応はEUが発出した「一時的保護に関する指令」と似ている。同指令のもと、欧州諸国に逃れた避難民は3年までの在留と住居、社会福祉、医療、教育などの面で難民同様の権利が与えられる。日本の現行入管難民法には今回のような避難民に対する法的根拠がない。そこで政府は今年秋の国会に入管難民法改正案を提出し、避難民を難民と同じように処遇をする「準難民」ないし「補完的保護対象者」という在留資格の創設を予定している。

 民間のウクライナ支援も極めて活発だ。東京都や横浜市など多くの自治体や企業が避難民の受入れを申し出たり、いくつかの大学がウクライナ人を留学生として受け入れを始めている。支援の申し出が多いため、出入国在留管理庁が調整窓口を設けているほどだ。資金面では、日本財団が50億円の資金提供を申し出たほか、多くの国際協力系NGOが多額の寄付を集めている。筆者の関わる国連UNHCR協会への寄付申し込みは、1日あたり平均一億円を超す。

官民挙げての「支援ブーム」の背景

 もはやウクライナ支援は「ブーム」のようになっているが、難民問題に関心が低いといわれる日本で、遠く離れたウクライナへの支援がこれほど活発なのはなぜか?

 まずは強い同情だ。病院や学校が爆撃され、民間人が虐殺されるなど、ウクライナの惨状が毎日報道されていること、避難民の大半が女性と子供であること、軍事力に劣るウクライナがゼレンスキー大統領のもとで善戦していることなどが、支援への意欲を生んでいる。

 怒りもある。本来なら国連安保理の常任理事国として国際間の平和と安全を守る責任のある国が、国際法を無視して核兵器で威嚇しつつ隣国に攻め入ったことは、順法精神の高い日本政府・国民にとっては絶対に許せないことだ。侵略国への怒りは被害者であるウクライナ支援への世論を高める。

 最後は不安感だ。北方領土を占拠するロシアは、日本周辺で軍事演習をするなど日本を威嚇している。ロシアの侵略行為を放置すれば、中国による尖閣諸島や台湾への軍事行動が容易になるなど、日本の安全保障が脅かされるという不安が支援行動を後押ししている。

日本の難民政策は変わるか?

 日本における官民の一致した考えは、軍事的支援ができないのなら、せめて日本に逃げてくるウクライナ人は受け入れたり、資金協力でウクライナ政府を助けたい、ということだろう。避難民のさらなる受入れについての世論調査では70%前後が賛成している。このような反応は日本の難民政策にどんな影響を与えるだろうか?

 まず「補完的保護対象者」の創設は難民政策の大きな変更となる。1951年難民条約の限界が指摘されて久しいが、「補完的保護対象者」の創設はそのような限界を超える可能性を持ち、今後いろいろな国からの「補完的保護対象者」の受入れが進むだろう。

 難民受入れ方法の多様化も進む。政府は20人ほどのウクライナ避難民を毎週飛行機で受け入れているが、これは2010年に始まった「第三国定住事業」の実質的拡大だ。官民による留学生としての受け入れなど「代替的受入れ」も拡大している。今回のウクライナ避難民支援は、官民が共同して難民・避難民を支援するという形を生んだが、これは国連が2018年に定めた「難民にかかるグローバルコンパクト」が求めているものだ。

 1982年に難民条約に加入して難民認定制度が作られてから今年で40年になる。ウクライナ避難民をめぐる日本の積極的姿勢は、「難民鎖国」と批判されてきた日本の難民政策を変え、さらには難民や強制移動の被害者に対する国民の意識を変える契機になると思われる。(JITOW)

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