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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 Vol.12】

大人の流儀

 伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 帯に自筆で「ちゃんとした大人になりたければこの本を読みなさい」と記しています。

 ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


出典元

『大人の流儀 1』
2011年3月18日第1刷発行
2011年7月14日第11刷発行
講談社


「人間は誰でも運、不運がある」から

伊集院 静の言葉 1 (34)

 
 人間は長く生きると、誰にでも運、不運があることがわかってくる。
 いい時と悪い時は交互に訪れるという人がいるが、それは嘘である。運のいい人間と、運の悪い人間はあきらかにいる。
 昔から人間が何か、誰かに祈ったり、頼み事をするのは、運、不運の存在を知り、運の悪い方に自分が入らないように願うからである。
 私は、神頼みはいっさいしない。ここまでいい加減というか、さんざ悪いことをしてきて、今さら神がこっちの言うことを聞く道理がない。

大人の流儀 1 伊集院 静




伊集院 静の言葉 2 (35)

 
 昔、将棋の升田幸三名人が面白いことを語っていた。
「よく若くして亡くなった人は善い人が多かったと世間で言いますね。私は、それは早く亡くなって可哀相だから、そう言って慰めていると思ったのですが、こうして名人になり、大きな会社の社長さん、会長さんに将棋の指南というか、まあ手ほどきをしに行くんです。そうしてわかったのですが、長く生きている人の手筋を見たり、人となりを眺めているとどうも悪そうな人の方が多いですね。長生きしたかったら善人をやめた方がいい」
 この逸話を読んだ時、なるほど一理あると思った。
 あれっ、テントウ虫がどこかに行ったぞ、酔い覚めに一杯引っかけに行ったか。

大人の流儀 1 伊集院 静



「女は不良の男が好きなんだよ」から

伊集院 静の言葉 3 (36)

 
 暴力と喧嘩は違う。喧嘩で命を落とすことはほとんどない。ヤクザの出入りや抗争とはまるで違うものなのだから。子供の喧嘩の延長と思えばいい。
 喧嘩は腕力ではない。勢いと度胸だ。
 弱い犬ほどよく吠えると言うが、喧嘩は大声を出したり、あおったりする方と、それに耐えていた方なら、実戦に入ると耐えていた方が精神力や腕力も強いのが常識だ。
 喧嘩は後腐れがあってはいけない。
(中略)
 役者や色男は力がない方がいい。
 色男で力があったらまず永生きできない。
 昔、歌舞伎町のコマ劇場の裏手にYという喫茶スナックがあって、そこのバーテンダーがめっぽう喧嘩が強いと評判で、酔った勢いで喧嘩になったら、私の半分くらいしかないガタイだったのにコテンパンにやられた。

大人の流儀 1 伊集院 静




✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。

🔷 「運のいい人間と、運の悪い人間はあきらかにいる」

この言葉に全く同感です。もちろん、私は後者です。
サラリーマン人生を振り返ってみると、運が良かったと感じられたことは皆無に等しいです。やることがことごとく裏目になりました。

運のいい人は、運の悪い私からみると偏見かもしれませんが、どう見ても大変な努力をしているようには見えませんでしたし(人の見ていないところで努力していたのかもしれませんが)、上司の覚えが良かったですね。

あまりに運の悪い人間であると自覚してから、その運命を受け容れることにしました。それ以来、落胆することは少なくなりました。諦観ですね。

🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。





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