見出し画像

盛田昭夫 『21世紀へ』(026) 第4章 国際化への試練 「日本はこれでよいのか」(1976年)から



盛田昭夫 『21世紀へ』(026) 第4章 国際化への試練 「日本はこれでよいのか」(1976年)から


『日経ビジネス』(2014.06.23)の特集記事「人事部こそリストラ」にソニー銀行の事例が紹介されていました。

このレポートによると、「銀行らしい」集団になっていて、「ソニーらしさ」の喪失だった、というものです。

では、「ソニーらしさ」とは何でしょうか?

 同社の強みは、「顧客志向」を徹底した独自のサービスを数多く導入してきた点だ。取り扱う金融商品の多さや扱いやすい外貨の積立貯金サービスなど、他のネット銀行やメガバンクにはない独自性こそが彼らの強み、「ソニーらしさ」だった。

『日経ビジネス』 2014.06.23 P.030


一言でいえば、「ソニーグループは大企業病に罹り、創業者精神を忘れてしまった」のではないか、ということです。

「茹でガエル現象」や「成功の復讐」によって、リスクを負って挑戦する気概を失ってしまったのではないか、と思います。

もしそうだとしたら、とても残念なことです。

ソニーグループの全員(経営者層も含む)に、盛田昭夫さんの『21世紀へ』を精読してもらいたいですね。


『21世紀へ』 盛田昭夫
2000年11月21日 初版発行
ワック


目次

はじめに

第1章 経営の原則

第2章 人材の条件

第3章 マーケットの創造

第4章 国際化への試練

第5章 経済活性化の原理

第6章 日米関係への提言

第7章 変革への勇気

第8章 日本国家への期待

第9章 新世界経済秩序の構築

あとがき




第4章 国際化への試練

「日本はこれでよいのか」(1976年)から

いま私の寒心に耐えないのは、日本ではこのコンセンサス(日本ではビジネスにおいても、家庭のおやじ的な統轄が要求されますが、それは全体のコンセンサスを前提にしている 注:藤巻隆)が失われてゆきつつある、ということです

 いま私の寒心に耐えないのは、日本ではこのコンセンサス(日本ではビジネスにおいても、家庭のおやじ的な統轄が要求されますが、それは全体のコンセンサスを前提にしている 注:藤巻隆)が失われてゆきつつある、ということです。小は家庭、会社、大は国家という運命共同体としてのおのずからなコンセンサスが薄れると、もともとそれを拠り所として成立した日本では、デシジョンメーキングが不可能になりかねません。
 アメリカではおのずからなコンセンサスではなく、異人種・異民族がその生国を離れて個人の意志でアメリカに移籍してきたので、各人にアメリカ国家を形成する一員たらんとする意識が強く、それが愛国心として常に働く。そこに自覚的なコンセンサスが生まれるわけです。
 たとえば、キッシンジャーは十六歳のとき渡米してきたユダヤ系ドイツ人で、国務長官どまりで大統領にはなれない人(大統領の資格はアメリカ生まれの人だけにある)ですが、アメリカこそ自分の国家であり、生存の拠点だとして奮闘している。異人種・異民族の差異を超える強い運命共同体としての国家意識の表明として、アメリカではどこへ行ってもアメリカ国旗を掲げ、何につけてもアメリカ国歌を唱います。

21世紀へ 盛田昭夫 077 
pp. 144-145


「日本はこれでよいのか」(1976年)から

日本の現代の青年(青年ばかりではないかもしれません)が、どれだけこの日本人としての連帯意識、運命共同体としての日本という自覚を持ち合わせているか、疑わざるをえません

日本の現代の青年(青年ばかりではないかもしれません)が、どれだけこの日本人としての連帯意識、運命共同体としての日本という自覚を持ち合わせているか、疑わざるをえません。
 これは、戦前戦中の軍部が強制した皇国史観へのリアクションか、戦後の占領軍が日本をふたたび強国たらしめまいとした政策の結果か__それが相乗的に影響したのだと思いますが、やはり真の民主主義を育成するというより、むしろ日本を去勢する方向に導いたのだと疑いたくなるほどで、その際の教育制度の改革もその一つかと考えられます。

21世紀へ 盛田昭夫 078 
p. 146


「日本はこれでよいのか」(1976年)から

島国の特性として、国境を接する大陸的な厳しい民族意識、国家意識を歴史的にも持ちえてこなかったのだと私には思われます

また、島国の特性として、国境を接する大陸的な厳しい民族意識、国家意識を歴史的にも持ちえてこなかったのだと私には思われます。地理的環境が自然の要素となって、外敵への脅威感を鈍らせたのでしょう。
 さらに、敗戦の悲哀を噛みしめるべき機に、終戦といいくるめてアメリカの温和な政策に馴れて、立ち直るべき国家的自覚をうやむやにしてしまった。それが、国家あるいは社会の秩序のなかで生きる責任感の欠如を青年にもたらし、赤軍とか過激派とかの独善的無責任、アナキーな威嚇活動を出現せしめたのではないか。

21世紀へ 盛田昭夫 079 
p. 146


「日本はこれでよいのか」(1976年)から

民主主義下ではマイノリティーは無力です

 民主主義下ではマイノリティーは無力です。われわれと逆の立場、異質な考えの人は、彼らの目標に向かって日夜活動を続けています。われわれはそれ以上の努力を重ねて、傾きかけたこの日本を立ち直らせねばならないのであります。

21世紀へ 盛田昭夫 080 
p. 149



盛田昭夫公式ウェブサイト



➳ 編集後記

『21世紀へ』を読み返して感じたこと

『21世紀へ』は、20世紀を全力で走り抜けてきた盛田さんが、このままでは日本がダメになるという危機感に、すべての日本人が気付いてほしいという悲痛な気持ちが伝わってくる本です。

盛田さんの「予言」はいみじくも当たってしまいました。
少なくとも現状においてですが。

この警世の書に書かれていることの多くが当たっています。

盛田さんの慧眼は本当に素晴らしいと思いました。

本書をアマゾンや楽天でなくても、ブックオフ等で目にしたら、ぜひ手に入れてください。なかなか見つからないかもしれませんが。

その内容の濃さと経験に裏打ちされた説得力のある文章に惹きつけられることでしょう。

盛田昭夫さんの言葉の数々は、時として大言壮語と感じることがあるかもしれません。しかし、盛田さんはそれだけ、ソニーの行方が気がかりだっただけでなく、21世紀において世界の中の日本がどのように変貌していくのか、気になって仕方がなかったのだろうと推測します。

21世紀のソニーと日本を自分の五感を通じて確かめたかったに違いありません。しかし、その願望は叶いませんでした。1999年に亡くなられました。


🔴「いま私の寒心に耐えないのは、日本ではこのコンセンサス(日本ではビジネスにおいても、家庭のおやじ的な統轄が要求されますが、それは全体のコンセンサスを前提にしている 注:藤巻隆)が失われてゆきつつある、ということです。小は家庭、会社、大は国家という運命共同体としてのおのずからなコンセンサスが薄れると、もともとそれを拠り所として成立した日本では、デシジョンメーキングが不可能になりかねません」


今日の日本では、愛国心という概念が薄れてきていると感じています。
愛国心というと「右翼だ!」「ダサい!」などの批判を直接あるいはSNSで匿名の無責任な投稿者によって誹謗中傷の的にされてしまうことがあります。

個人の意見は異なる意見としてそれぞれ尊重すべきで、自分と他人は違うということを前提にして、意見交換することは大切です。

その一方で、野球やサッカーの日本代表チームを例にとれば、日本人全員とは言いませんが、一体感を持って応援しますね。この態度は意識しているか否かに関わらず、「愛国心」に近いものではないかと認識しています。

自分が毎日生活している国が嫌い(愛国心を抱けない)なら、他国へ移住すれば良いのです。個人の自由なのですから。もちろん、いろいろな事情でそう簡単にできないことはよくわかっています。生活費をどう稼ぐか、環境の違い、言葉の問題、家庭を持っているかいないかなど……。

日本は現状では言論統制が行われていませんが、メディアでは報道すべきことでも政権与党や官僚などによって報道規制が敷かれる、あるいはメディアが忖度して報道しないということは今でも行われています。

報道機関としての矜持を持ってもらいたいと強く思います。




盛田さんは、一点の曇りもなく、自分に正直で、言行一致した行動派の経営者でした。また、今ではなかなか見つからないダンディなジェントルマンでもありました。表現がダサい? 古い?



⭐ソニーの現状 (ソニーグループの子会社)


ソニーを日本企業とは知らない人たちがいることに驚きました。

ここ数十年で業態を変えてきたことは、世の中の変化に素早く対応できることを示しています。

ソニーは「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野」を扱う企業ということになりますが、半導体も生産していますし、得意な映像技術を深掘りしています。映画部門も持っていますね。

極論すれば、音と映像を2本柱にして、これらに関わる技術を開発し、横展開していると言えます。

ただし、ウォークマンが大ヒットしたあと、アップルの iPhone のようなスマートフォンがなぜ作れなかったのかと悔やまれます。技術力はあったはずです。目利きが及ばなかったのでしょう。

スマホがここまで世界中に受け入れられるとは想像していなかったのかもしれません。


⭐『21世紀へ』について

『21世紀へ』に関するこのブログを最初に投稿したのは、アメブロで10年前(2014-08-05 21:41:08)のことでした。

note に再投稿するにあたって、大幅に加筆修正しました。

『21世紀へ』の「はじめに」の1行目から2行目にワック編集部による
この本の説明が書かれています。

本書は、井深大と並ぶソニー株式会社のファウンダー(創業者)盛田昭夫によって、1960年代から90年代にかけて執筆された論文の集大成である。

21世紀へ 盛田昭夫 p. 1  


ソニーは日本を代表する世界的企業であることに異論はありません。



✑ 盛田昭夫氏の略歴

巻末の「著者紹介」から

盛田昭夫(もりた あきお)
ソニー創業者。1921年生まれ。大阪大学理学部卒業。
海軍技術中尉に任官し、井深大と出会う。
46年、井深とともにソニーの前身、東京通信工業を設立。
ソニー社長、会長を経て、ファウンダー・名誉会長。
この間、日米賢人会議メンバー、経団連副会長等を歴任。
海外の政財界にも幅広い人脈をもち、日本の顔として活躍した。
98年米タイム誌の「20世紀の20人」に日本人として唯一選ばれる。
99年死去、享年78。
著書に『学歴無用論』(朝日文庫)『新実力主義』(文藝春秋)
『MADE IN JAPAN』(共著、朝日文庫)『「NO」と言える日本』
(共著、光文社)等がある。


(4,501 文字)


⭐出典元



クリエイターのページ

大前研一 名言集

堀紘一 名言集

稲盛和夫 名言集

伊藤雅俊の商いのこころ

カリスマコンサルタント 神田昌典


サポートしていただけると嬉しいです。 サポートしていただいたお金は、投稿のための資料購入代金に充てさせていただきます。