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【回想録 由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い 第60回】

🔷 「入院」の中の「午前四時三十三分」の前半を掲載します。🔷

 『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』
(ハードカバー 四六版 モノクロ264ページ)
2016年1月25日 発行
著者   藤巻 隆
発行所  ブイツーソリューション

 ✍『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』(第60回)✍

「入院」の中の「午前四時三十三分」の前半を掲載します。

入院

午前四時三十三分 前半

 由美子が亡くなったのは、平成二十七年八月八日午前四時三十三分のことでした。私は前日の晩から病室に泊まっていました。看護師さんから「簡易ベッドを用意しますが、宿泊されますか?」と訊ねられ、「泊まります」と即答していました。

 看護師さんから「横になって休まれたほうがいいですよ」と言われましたが、午前零時になっても目が冴えて寝られませんでした。その後も、由美子のことが気になってずっと起きていました。一睡もできませんでした。

 由美子は酸素吸入を続けていました。喉で息をしていて、苦しそうでした。目は見開いていましたが、見えていないようでした。

 たんが詰まりだし、二人の看護師さんがたんが気道に詰まらないように、器具を使って、たんを吸い出していました。ほぼ三十分間隔だったと思います。

 

家族に連絡

 看護師さんから、「ご家族に連絡してください」と言われ、すぐに病室から自宅へ電話しました。母に「可奈を起こして、すぐに病院に来るように伝えてくれ」と伝言しました。

 可奈が病室に到着したのは、由美子が息を引き取る前でした。

 心拍数の変化を示すモニターを見ると、乱高下しだし、徐々に数値が小さくなってきました。七〇・・・四〇・・・二〇・・・〇。

 看護師さんは私に訊ねました。


延命措置

 「延命措置をしますか?」

 可奈と相談し、「これ以上、苦しめることはやめてください。もう十分に頑張ったのですから」と答えました。一旦、延命措置をすると、心臓が停止するまで人工呼吸器を取り外すことができない、と事前に説明を受けていたからです。

 看護師さんから「まだ聞こえていますから、声をかけてあげてください」と言われ、私は由美子の左手を固く握りしめ、耳元で叫びました。

 「ゆみこ–––––––。 聞こえるか––––––」。

 もちろん、返答はありませんでした。

 続いて、可奈も由美子の手を握り、声をかけたはずですが、可奈が何を言ったかまでは覚えていません。思考停止状態になりました。何も考えられなくなりました。可奈には、あえて聞きませんでした。

 看護師さんが当直の医師を病室に呼び、由美子の死が確認されました。午前四時三十三分のことでした。

(PP.133-135)


➳ 編集後記

第60回は「入院」の中の「午前四時三十三分」の前半を書きました。

由美子が息を引き取る前日の8月7日の晩から、病室に泊まり込んでいました。一睡もできなかったのは、気持ちが高ぶっていたからに違いありません。強烈な緊張状態が続いたため、トランス状態<通常とは異なった意識状態 : Wikipedia>になっていたからでしょう。

もちろん、由美子を看取るという伴侶としての責務を果たすという意思がそうさせたのかもしれません。



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