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【モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか 田中道昭 インターナショナル新書 集英社】

モデルナ

新型コロナウイルス、オミクロン変異株の蔓延拡大が進行し、一向に終息しません。

そのような状況で、ファイザーやモデルナはいち早くワクチン開発に成功しました。

ファイザーは巨大な製薬会社ですからワクチンを作り出せてもあまり驚きはありませんでしたが、モデルナは製薬業界の新興企業であったにもかかわらず、短期間でワクチンを作ることができたことに驚き、たいへん興味を持ちました。

その秘密を明かしたのがこの本です。

『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』
 田中道昭 インターナショナル新書 集英社

その本の内容について触れる前に、まずワクチンとはそもそも何なのか確認しておきましょう。

ワクチンとは

「ワクチンとは、ウイルスや細菌などによる感染症を予防するための医薬品」(P.47)です。


モデルナとは

「モデルナは『バイオテク界のテスラ』(Bloomberg 2021年7月17日)とも呼ばれています」(P.21)


デジタル・ビルディング・ブロックでAIが最上位

「モデルナがDX化を推進するにあたって構築している6層からなる概念上のインフラです。DX化の基本原則とも捉えることができます」(P.64)

6層は、土台の「クラウド」。その上段には「ビジネスプロセスとデータの統合」、その上段には「IoT(モノのインターネット)」、さらにその上段には「自動化とロボティックス」、その上段にくるのが「アナリティックス」、そして最上段に位置づけられるのが「AI」


AIの課題

AIが最上位に位置づけられることから、「AIの場合、最大の課題は経営層の意識改革」(P.72)であり、「AIを会社のDNAの一部にするために、社内のトップ200人がいかにAIを使いこなせるようにするかが課題」(P.72)となっています。


モデルナがなぜ秒速とも言えるスピードで新型コロナウイルスワクチンを開発できたのかという理由を知って、思い出したことがあります。

勝ち残るために不可欠な3つのポイント

🔷 企業競争の中で勝ち残るために不可欠と私が考えるものは、3つに大別できます。

1 ブルー・オーシャンで勝負すること

2 ルールを変えること

3 群を抜く差別化を図ること


1つ目はレッド・オーシャンではなく、ブルー・オーシャンで自社の優位性を保つことです。

レッド・オーシャンで勝つには企業の強靭な体力、資金力が必要です。ニッチェな領域であればブルー・オーシャン戦略が機能する可能性があります。

2つ目はルールを変えることです。

モデルナのケースで説明しますと、「ワクチンや薬の開発には、研究開発・・・審査も含めて10~15年程度かかると言われています」(P.18)というのが常識でした。

そうだとすれば後発の製薬会社に勝ち目がありません。後塵を拝するだけです。先行者を追いかけるだけでは追いつき追い越すことは容易ではありません。

モデルナはこのいわば既成概念(私はルールと解釈しました)を破壊(ディスラプト)するためにmRNAというプラットフォームを使うことで「ルールを変えた」と考えました。

「自分の細胞が自らタンパク質を作るための設計図」であるmRNAは、書き直しや編集が可能である点で応用できます。mRNAは「生命のソフトウェア」(P.57)という言葉が象徴的です。

その結果、「遺伝子情報の開示からワクチン候補の設計完了まで、わずか3日、・・・臨床試験準備完了までの期間は、わずか42日」(PP.16~7)という驚異的なスピードでワクチン開発に成功したのでしょう。

もちろん、その背景にはDX(デジタルトランスフォーメーション)という新技術が近年になって登場したことが大きく貢献したことは間違いありません。

そしてAIが重要な役割を果たしていることが推測できます。

さらに言えば、モデルナの経営陣の先進的な考え方が根底にあったことは言うまでもありません。


最後は群を抜く差別化です。

既存の製薬会社と差別化を図るためには、「デジタル製薬企業」になることでした。

🔶 AI、クラウド、アナリティックス、データサイエンス、ロボティックスそして自動化を駆使して短期間で創薬することを目指したのです。

🔷 つまり、モデルナは勝ち残るために不可欠な3つのポイントを同時にものにしたということです。

ルールを変え、自分の土俵(ブルー・オーシャン)で事業を構築し、群を抜く差別化をすれば、既存の製薬業界に打ち勝つことが可能になります。そのためにmRNAプラットフォーム戦略を採用したのだろうと思います。

「『デジタル製薬企業』の構築でした、その本質こそ、mRNAプラットフォーム戦略を推進するためのDX化なのです」(P.35)

🔷 私心の入る余地がないことを示す言葉。
「私たちの判断は全てデータに基づいて行われるのです」(P.71)

🔷 モデルナの課題
「ワクチンや薬品の製造をアウトソースしているため、有効性や安全性の獲得が課題となる」(P.73)

「サプライチェーンを含むオペレーションの過程で課題が出てくる可能性がある」(P.74)



最後に付け加えることがあります。

<ビジネス書との関わり>

私は30代の頃からそれまで読んでいた小説からビジネス書へと移行しました。

むさぼり読んだのは、世界最高の経営コンサルティングファーム、マッキンゼー本社の元常務で日本法人代表だった大前研一氏と、マッキンゼーと並ぶボストン・コンサルティング・グループ日本法人代表だった堀紘一氏などの書籍でした。

おふたりとも日本市場で上場しています。前者はBBT(2464)で後者はドリームインキュベータ(4310)です。大前さんはまだ筆頭株主ですが、堀さんは持ち株すべてを電通グループに売却しました。

優れたビジネス書の面白さは、企業は生き物であること、そしてそこで働く人たちの生き方が活写されていることです。創業者によって書かれた書物は特に創業からの息吹が伝わってきて楽しめます。成功物語より、なぜ失敗したのかという話のほうが参考になります。



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