理系大学生がアルバイト先と裁判をしてみた 〜裁判に至るまで〜

 私は、夏は暑く冬は寒い県の県庁所在地にある大学で現役の大学生をしている。現在は学部4年生であり、ひたすら研究に没頭する毎日である。

 そんな私は1年生、つまり3年前から今年の春まで、飲食店でバイトをしていた。ホテルからの紹介も多く、県内のタクシー運転手であれば幾許か遠くても店名を伝えるだけで連れて行ってもらえる、そんな有名な個人経営の店だった。

 しかし、学生アルバイトから見れば、急にシフトが休みになっても補償はない、深夜残業手当の支払いもない、有給休暇の概念なんて存在しない、いわゆるブラックなバイト先だった。

 こんな環境であっても、経営者に対してそれなりの信頼があったこと、よくしていただいていると思っていたことから、これらについては目を瞑って卒業までお世話になろうと思っていた。

 これが変わったのは昨年である。私は新型コロナウイルス感染症に感染してしまった。大学で発生したクラスターに巻き込まれたのか、バイト先の飲食店で感染したのか、はたまた別の原因か、それはわからなかったがちょうど感染者数の最盛期、感染源の特定は保健所は行わなかった。

 ちなみに大学で行われたワクチン接種はこの1ヶ月後だった。また、ワクチン接種後に感染した同期は私より軽症で、後遺症も軽い。こればかりはワクチン接種の対応が遅かった大学を心の底から批難している。

 アルバイト先との関係が悪くなったのはこの頃からである。当時私は大学3年生。バイトリーダーとして周りをまとめる役割もあった。しかし、感染によってしばしの間出勤できなくなった。そのため、アルバイト先の店長(個人事業主だから言ってしまえば社長)はバイトリーダーの任を解いた。また、勤務できるようになってからもしばらくの間出勤停止にした。

 裁判では、この間私が出勤できなくて困ったと述べたらしい。こちらは出勤できる状態でありながら出勤を停止しておいて何を言っているのかとしか思えない。

 さて、この飲食店は夜に営業する形態だった。だからコロナが流行れば営業時間は短くなる。もちろん定時よりも早く上がることも多かった。その分の給与や補償はもちろん支払われない。アルバイトとしては当然不信感が積もるばかりである。

 ただし、ここで問題だったのは、労働基準法15条に定められる労働条件の明示がされていなかったことである。だから定時を定めたものはどこにもない。しかし、労働基準監督署によって慣例的に決まっているのであれば、ということで初めて定時が決まったと言える。

 ここで救いの手が現れた。国が時短分の補償を肩代わりすると言っても差し支えない制度、新型コロナウイルス感染症対応支援金・給付金である。私はこの給付を受けるために、事業主に対して労働基準法109条に定められている記録文書の提供を求めた。
 しかし、ないのである。税理士に提出するために保管していた直近1年間程度はあれど、それ以外は一切ない。結局、この給付金はこの記録が存在しなかった部分については支払われないこととなった。

 ここまであって、果たしてどれだけ事業主に対して信頼を置けるだろうか。当然ないのである。そのため、深夜残業手当の支払いを求め、追加して有給休暇の申請、そして新型コロナウイルス感染症対応支援金・給付金の未払い分の損害賠償を行えと訴えたのだった。

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