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零落(2023)

浅野いにお氏の漫画を竹中直人監督が実写映画化した「零落」。身勝手で自己中な主人公が悩み苦しんで自暴自棄になって周囲に甘え、当たり散らして…と、観ていてまったく心地良い作品ではないのだけど、とても好きだ。

8年間の連載が終了した漫画家・深澤薫は、自堕落で鬱屈した空虚な毎日を過ごしていた。SNSには読者からの辛辣な酷評、売れ線狙いの担当編集者とも考え方が食い違い、多忙な漫画編集者の妻ともすれ違い、何もかもがうまくいかない。そんな深澤が、ある日“猫のような目をした”風俗嬢・ちふゆと出会い…

人気作家が8年間もの連載を終え、「じゃあ、次の作品を」と言われても、そんなに簡単に"次"が出てくるわけがない。しかも、8年の間にウケる漫画の傾向は変わっており、自分の描きたいものと読者ウケするものの間にギャップも生じている。編集者は当たり前のように"売れる作品"を描いてほしいとのたまう。

しかし、世の中で売れている作家はたいしたことないじゃないか。こんな低レベルの作品を支持している読者はバカなんじゃないか。俺ならもっと凄い作品が描ける。だけど、凄い作品はバカな読者には理解されない。こんなの、やってられるかよ!

そんな、作家の内面的な鬱屈、ものを作る苦しさを「これでもか!」というくらい思いっきり描いた本作は、竹中直人監督がかつて映画化した「ねじ式」等の作家・つげ義春作品にも通じる。

哲学的な対話劇のような一面もありつつ、切り取られたフレームの背景に見せる絵画や、暗い海の波のうねりなど"景色による余白"など、贅肉を削ぎ落した青暗く静謐な演出が主人公の心持ちを見事に表現している。

また、不協和音を交えた音楽の使い方もクラシカルかつドラマティック。

このクズな主人公を、これ以上ないほどに斎藤工さんが好演。深澤役が彼でなければ、もっと嫌な映画になっていたことだろう。

また、主人公の深澤もたいがいなんだけど、輪をかけてアシスタントの富田のエゴはもの凄くて、観客と深澤の他に彼女を置くことで観客が深澤を見るバランスを上手く調整しているのも見事だと感じた。

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