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ソフト/クワイエット(2022)

ベス・デ・アラウージョ監督「ソフト/クワイエット」を観た。92分全編ワンショットで、白人至上主義の女性たちの暴走を描く。ソフト&クワイエットに世の中に自分たちの思想を広めていくとして始まったはずの彼女らの活動は、その言葉とは裏腹に激しく取り返しのつかない展開にエスカレートしてゆく…

92分全編ワンショットという映像は、決して映画全体を見やすくはしないが、リアルタイムで起こる出来事と彼女らの精神状態の変化を臨場感をもって観客に伝え、観ている側を"その場で"事件に巻き込まれているような感覚にさせる。

物語はこうだ。とある郊外の幼稚園に勤める教師エミリーが、「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義のグループを結成し、教会の談話室で第1回集会を行う。集まったのは6人の女性。多文化主義や多様性が重んじられる現代の風潮に反感を抱き、有色人種や移民を毛嫌いする6人は、日頃の不満や過激な思想を共有して大いに盛り上がる。

やがて彼女たちはエミリーの自宅で二次会を行うことにするが、途中立ち寄った食料品店でたまたま出会したアジア系の姉妹に集会の勢いのまま因縁をつけ… これが理不尽でおぞましいヘイトクライムへと発展していく。

自分の不幸は全て白人以外の人種のせいだと責任転嫁し、怒りがエスカレートしていく白人女性たちのヒステリックかつ歯止めの効かない行動をワンショットで臨場感溢れる形で見せたのは凄い。ワンショットだけに、決して映画全体の完成度が高くはならないが、ここで描かれたもの、その描き方は強烈で、いわゆる"胸糞が悪くなる映画"ながら一見の価値あるエネルギーに溢れている。(ちなみに、このテーマは主人公が白人でなくても成立するので、特に白人だけを批判している内容ではない。人間の恐ろしさそのものを描いている。)

【余談】
本作は4日間のリハーサルで撮られたそうだが、92分演じ切った俳優も、場所の移動含めて工夫を凝らした撮影スタッフも偉いなぁ…。

また、監督がこの脚本を書き始めたのは、2020年にセントラル・パークで黒人男性に脅されたと嘘をついて警察に通報したエイミー・クーパーの虚偽通報がきっかけだったらしい。

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