見出し画像

帰らない日曜日(2021)

エヴァ・ユッソン監督「帰らない日曜日」を観た。

1924年のこと。英国のお屋敷で働くメイドが年に一度の里帰りを許される"母の日"に、雇い主から「ジェーン、君は休みをどう過ごすの?」と聞かれて「自転車で遠乗りして読書をしてきます」と答える彼女は孤児院育ち。

しかしその実、彼女は"秘密の恋人"である名家の跡継ぎポールから誘われた密会に向かうのだ。幼なじみとポール自身との結婚の前祝いのために家族が出払った屋敷で、「後から追いかける」と家族に伝えたポールは、ジェーンを招いて親密なひと時を過ごす。

自身の結婚を控えながら、「この結婚は義務なんだ」「僕は人の3倍の収入があるから」「僕はこのあと昼食会に出かけるけど家族は夕方まで戻らないから、この屋敷でゆっくりしていっていいよ」と優しさ溢れる微笑みで愛情たっぷりにジェーンを見つめるポールには一片の嫌味もなく、見事なまでにこの雰囲気を醸成する演技を見せるジョシュ・オコナーは本作の重要な構成要素だ。

彼に言われたままに、情事の後、他に誰もいない大きな屋敷の中を全裸のままゆったりと歩き回るジェーンを演じたオデッサ・ヤングのごく自然に見える大胆な美しさも、まるで美術館に飾られた絵画のよう。

この、柔らかな陽射しが包み込む二人の幸福な時間と風景が、あまりにも我々の日常や普段観ているエンターテインメント要素満載の映画の空気と違っていて、やや慄いてしまうほどである。

ポールが昼食会に出かけた後に起きる出来事で、あたかもちょっとサスペンスフルな展開に転調してもおかしくないように考えてしまったが、本作はそういうものではなく、あくまでも前半の二人の姿をそのまま大切に永遠のものにしていく作品なのでありました。

あと、彼らを取り巻く周辺の登場人物たちには、第一次世界大戦で子供や恋人を亡くしながら生きていく悲しさが満ち満ちていました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?