見出し画像

イナゴの日(1975)

映画「バビロン」が1920年代のハリウッドを描いているというのに違和感しか感じなかったので、1930年代後半のハリウッドを舞台にしたジョン・シュレシンジャー監督の「イナゴの日」を見返してみた。

大学を卒業したばかりのトッドは、映画会社の美術部に就職することになってハリウッドの安アパートに引っ越してきたのだが、庭をへだてた向かい側に住む娘・フェイに心惹かれる。彼女は映画のエキストラで、輝かしい映画スターになることを夢見ていた。

トッドはフェイに一生懸命アプローチするが、彼女は気があるそぶりを見せながらも恋人にはなってくれず、他の男にも遠慮なく色気を振り撒く。そんなフェイに夢中になってしまう、もう1人の男・ホーマー。経理事務員で内向的なホーマーは、フェイへの片想いが募るあまりに彼女を自分の家に住まわせ、彼女にドレスを買い与え、さらに彼女の愛人らしき男まで車庫に住まわせる。

とにかく、フェイの身勝手な傍若無人ぶりが(確かに彼女は自身について自覚しながら行動してはいるが)これでもかという勢いで描かれ、彼女に振り回されるホーマーの圧倒的な悲惨さには目も当てられない。

この、どうあがいても映画スターになりようがない、安っぽくも、媚を売るのに余念がないケバケバしいフェイを演じるのがカレン・ブラック。あまりにも役にピッタリすぎて、演技が上手いのか、そのまんまなのかわからないが、もう見たくないほどの"嫌な女"っぷり。

悲惨さの極みを演じるホーマー役は、なんとドナルド・サザーランド。あのドナルド・サザーランドが、終始おどおどした情けない男を演じているのは意外!

ここに、トッドと同じアパートに住む超意地悪な子供アドールが絡みながら、舞台はクライマックスの群衆で埋め尽くされたサンセット・ブルバードになだれこむ。そして、タイトルが意味する大狂乱へ…

夢を見てハリウッドに集まってくる多くの人々のほとんどは撮影所付近の安アパートでくすぶっている。スポットライトが当たるのは、ほんの僅かな人間だけだ。そんな当時の「ハリウッド」という虚飾の世界を描いて見せた本作は見事であり、実に恐ろしくもある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?