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The Son/息子(2022)

容赦なく衝撃的。前作「ファーザー」とは全く異なる衝撃なのだが、今回も観る者に相当な打撃を与える。ただ、それは不快というものとは違っていて、深く抉られるような、感動と悲しみがない混ぜになったような気持ちを観客は持ち帰ることになる。

フロリアン・ゼレール監督の第2作「The Son 息子」。赤ちゃんが生まれて幸せに満ちた家庭。若く美しい妻と、成功した弁護士の夫。その夫のもとに、不意に前妻がやってくる。彼女のもとで暮らす17歳の息子の様子がおかしいから父親として話してやって欲しいと。

息子は精神的に参っており、父親のもとで暮らしたいと言う。頼れる父として、離婚の贖罪の気持ちもあって息子の希望を聞き入れようとする弁護士。当然、妻にとっては他人が生活に割り込んでくるのは心地よくないが、自分の気持ちは押し殺して受け入れる。

こうして新しい生活が始まり、息子は快方に向かうかと思われたが…

まず、ヒュー・ジャックマン演じる、この弁護士がなかなかキツい。弁護士としては成功し、華々しい活躍をしているものの、表面的には正しくもっともらしいことを言いながら、実は相当に利己的で何もかもを自分の都合で動かす上に全てを自己正当化する人物である。(まさに、そのまんまの気持ちを息子にぶつけてしまう場面は、あまりにも痛い。)

ローラ・ダーン演じる元妻の息子や元夫に対する態度や物言いには、無自覚な狡さが溢れていて、非常に鼻につく。

こんな2人が泥沼の喧嘩の挙句別れて、この母親の夫に対する呪いの言葉を聞きながら育った息子は、さぞ辛かったろうと、想像するだけで胸が苦しくなる。(それだけ3人の役者の演技は素晴らしい!)

息子は単に学校をサボっているのではなく、「人生が重すぎて辛いんだ」と訴えるが、母親は「愛してるから大丈夫よ」と事の本質を理解しないし、父親は息子の行動に論理的な説明を求め続ける。「理由を説明しろ!」「自分でもわからないよ!!」

まさに本作のキャッチコピー「完璧な親はいない。そして、完璧な子供も」という言葉通りの状況の中、それぞれがなんとかしようと頑張るのだが、全員がお互いを理解しあえず寄り添えず平行線を辿ったままもがき続けるので、沈むばかり。

あまりにも完璧な脚本ゆえ、丁寧に張られた伏線から物語の行く末が予測できてしまったが、予測できたおかげで正直助かった… 予想していてすらキツい。

でも、本作は決して楽しい映画ではないが、"心の病を抱えている人が多い現代社会の問題"に真摯に向き合った傑作として(元気なときに)観て欲しい一作である。

【ネタバレ】
息子が浴室に閉じ籠って、何をしながら洗濯機の回るのをじっと見ていたのかが最後にわかるが、これは実に辛い。
あと、「昔に戻ったみたいだ」と笑ったときに、「でも、これは一瞬の出来事で決して続かないから、この瞬間が1番幸せなんだよな」と観ていても思ったから、今しかないんだよね…

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