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マルメロの陽光(1992)

ビクトル・エリセ監督が1992年に発表した「マルメロの陽光」を久しぶりに見た。昨日「ミツバチのささやき」と「エル・スール」を見たので、これで今週公開の新作「瞳をとじて」に向けて整った気分だ。

「マルメロの陽光」は、1990年の9月29日にマドリードのアトリエで、画家のアントニオ・ロペス・ガルシアが黙々とカンバスを組み立てる姿から始まる。

庭で育ったマルメロの木がまんまるとした黄色い果実を実らせたところに、水平と垂直線の目安となる糸を張り、イーゼルを据え、足場を決め、絵筆をとる。

マルメロの実に映える陽光の美しい輝きをカンバスにすくいとることを夢見ながら、画家は毎日試行錯誤しながら、朝から夕方までカンバスの前に立つ。

映画は、そんな画家と、ときおり訪れる家族や友人たちの姿を映しながら、139分にわたり静かに刻む時を描き続ける。半ば、ドキュメンタリー作品のように。

特にドラマティックなことが起きるでもなく、12月11日まで画家がマルメロの陽光に向き合う姿を捉える本作は、観客も画家の仲間になって「筆の進みはどうだい?」と毎日彼の様子を見に行くような距離感で隣に佇むような作品である。

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