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渇水(2023)

高橋正弥監督「渇水」を観た。映画が始まるや、フィルムで撮影された映像の質感、少しざらっとした映画の空気感が伝わってくる。

日照り続きの夏、水道局に勤める岩切俊作は、同僚の木田とともに来る日も来る日も水道料金が滞納する家庭を訪ね、罵詈雑言を浴びせられながら、水道を停めて回っていた。

県内全域で給水制限が発令される中、岩切は幼い姉妹と出会う。父は蒸発、一人で姉妹を育てる母もお金に困って水道代を払う気はなく、岩切たちに食ってかかる。困窮家庭にとって最後のライフラインである“水”を停めるのか否か。葛藤を抱えながらも岩切は規則に従い停水を執り行わねばならない。それが仕事なのだ。

岩切自身も自分が子供だった頃の家庭環境が酷かったため、妻や子供との関係をどう構築すれば良いのかわからず、妻子に家を出て行かれてしまうという、どうにもならない心が渇き切った日々を送っている。

そんな家庭の状況に、毎日滞納者に罵られ、ある面で非情な行為をしなければならない岩切の目は完全に死んでおり、その虚で伏しがちな目の表情の演技を見せる岩切役の生田斗真さんが凄い。

また、この生気のかけらもない岩切の相棒・木田を演じる磯村勇斗さんは仕事に対して多少投げやりながらも生命力が前に出るキャラクターで良い按配でバランスを取っていて映画の前半を転がすエンジンになっている。こちらも素晴らしい。

なお、姉妹を演じた山﨑七海さん、柚穂さんの2人の芸達者ぶりも相当なもの。

映画前半が厳しい日常を丁寧に淡々と描く分、この物語はどこに行くのだろう?とやや心配になるが、その前半の地味さを活かしてちゃんと後半に畳み掛けてきて、良い映画だなと感じながら劇場を後に出来る仕上がり。

【以下、ネタバレ】
本作は、日照り続きの中、ひたすら水道を停めて回る岩切たちの毎日を丁寧に描きながらカラッからに乾いていく世界を観客に見せつけて、やがて、岩切たちが出会った幼い姉妹が母にも育児放棄され、水も絶たれて追い込まれていく姿を見た岩切の心が決壊し、彼自身の"渇水"まで打破する爆発的な行動に出て、彼自身が再生していく様を生田斗真さんの目の表情の変化と共に見せ、わずかな希望を抱かせる。

この前半と違って非現実的な、ちょっと過剰な後半の展開が、映画全体の生命力を作りあげ、後味の悪さを消していると思う。実際はちょっとマシな方に行っただけで、根本的には問題解決出来ていないからね。でも、そこがこの映画の、現代の世の中にあるこういった問題への問いかけなのでしょうね…。

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