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ヒンターラント(2021)

第1次世界大戦後のオーストリアを、全編ブルーバック撮影により悪夢のように描いたという映像表現が気になって、シュテファン・ルツォヴィツキー監督「ヒンターラント」を観てきた。

「アベンジャーズ」など最近の映画ではブルーバック撮影で、ありえない世界を実写のように描くのは見慣れているが、本作の背景映像は、1920年の映画「カリガリ博士」のように微妙に歪んだ画になっていて、第1次世界大戦後が舞台なのに、あたかも近未来ディストピアSFのような独特の世界を形成しており、お見事。

画作りだけでも観る価値がある本作だが、舞台設定や物語もしっかりと面白い。

第1次世界大戦でオーストリアが負け国王が逃亡してしまった後に、3年間もロシアで捕虜になっていた主人公ペーターと戦友たちが帰国する。敗戦国となり変わり果てた祖国では、帰還兵は邪魔者のように雑に扱われ、ペーターの自宅には彼の生還を諦めた家族の姿はなかった。

まず、そういった戦争による悲劇というテーマがしっかりと描かれる。

その上で、ペーターと共に帰国した帰還兵の仲間たちが次々と残忍な殺され方をする連続殺人事件が起き、元刑事だったペーターは事件解決のために捜査に協力させられることに… という推理サスペンス的な物語が展開する。

ペーターは家族から逃げて戦場に向かった過去や、収容所で起きた出来事や、犯人の心の闇、そして自身の心の闇と向き合いながら、事件の真相に迫る。

という、幾重にもネタが散りばめられた、見応えのある仕上がりに感心した一作。これは、一見の価値あり!

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