北部のウェールズ語言語景観(仮)
1年間ウェールズ南部のカーディフで生活するも、実際にウェールズ語の会話を耳にする機会には恵まれず。ウェールズ語の教会や語学教室ぐらいでしか、当該言語での会話を聞いたことがなかったこともあり、話者比率が高い北部を訪問し、ウェールズ語に関してさらなる知見を得られないか試みた。
なお、統計からみたウェールズ語話者の分布は下記のような形(※追って加筆予定)である。
Carnarvon(カナーボン)は立派なお城がある観光地でもあり、見るからに外国人である私に現地語と遭遇する機会があるか、いささか不安であった。しかし、そんな心配をよそに、現地では年齢層に関係なくウェールズ語が使われていた。
何も考えずに昼食に入ったカフェ。店内には私以外に4組、10人弱の地元の常連客がいらっしゃったが、店員を含め、いずれもウェールズ語で会話されていた。お年を召した男性客、一人で来店したおじいさん、赤ちゃんを連れて入ってきた夫婦、10代と思わしきカップル。いずれも会話で使用していた言語はウェールズ語。大きな町ではないせいか、顧客も店員も顔見知りのようである。顧客が入店するやいなや、ウェールズ語での会話が始まる。テイクアウトか店内か、久しぶりに会う、赤ちゃんがかわいい、など、おそらくそのような会話をされている。対して、私のような観光客が入ってくると、英語での対応であり「お会計は現金でお願いしており、クレジットカード払いを希望される場合は、15ポンド程度の注文をお願いしたい」というような案内が行われた。
店員は中年の女性と、若い男性の2人。男性は南アジア系移民の見た目であるが、やはりウェールズ語で話していた。女性は気さくな方で私を含めた顧客に積極的に話しかけているほか、独り言も多い方であった(もちろん独り言もウェールズ語)。店内のメニュー表は英語表記であったが、そういえば入口の営業時間の案内はウェールズ語であった。
ちなみに、ウェールズ語での会話中でも、(借用語や単語レベルではなく)度々英語のセンテンスが混ざるのは面白い。ウェールズ語で会話している方々のYouTubeやSC4などで見たことがありましたが、本物を見ると実在していたことを感じる。日本語会話では、英語がセンテンス単位でコードミックスされるのは、せいぜい「アイドントノー」「アイラブユー」ぐらいだと思うが、ウェールズ語会話では、唐突に「I haven't seen you for a long time」と入るので、日本人の感覚では不思議。とはいえ、インド映画などでも現地語の会話の中で度々、英語のセンテンスが入ることがあるので、そういった類でしょうか。
その後も町を歩いているだけでも度々、ウェールズ語の会話は耳にした。「英語以外の言語」に周波数(?)を合わせて耳をそばだてていても、観光客も多いため、単に外国語だったりするパターンも多いのですが、「ll」「ch」あたりの喉音が耳に入ったらウェールズ語だろうと判断ができそう(似たような音を使うドイツ語・オランダ語とも見分ける必要こそあるが)。
言語景観としては、地名や登録名にウェールズ語(あるいはウェールズ語由来)が残っているケースがカーディフよりも多いせいか、「ウェールズ語が多く使われている」という印象を受けやすい。すなわちは下記④の地名が相対的に多いため、まず道路表記やお店の看板がウェールズ語単表記のようにすら見える。
そして、この錯覚を差し引いたとしても、実際に個人商店・地域コミュニティによるウェールズ語使用が南部と比べて確かに高いゆえ、言語景観上もウェールズ語表記が南部よりも実際に多く溢れている。そして、ウェールズ語をかかげている個人商店も、エキゾチックな雰囲気を醸成するために観光客向けにウェールズ語を使用している類のものではなく(お土産物屋、パブ、レストランなどに多いか)、地元民向けの商店(理髪店、衣料店など)でも現地語を使用されているのが「生きた言語」としてウェールズ語が使用されていることを確かに示している。