イルカの午睡

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カイゴロク記事一覧

目次  はじめに  序 1 事変勃発・Bちゃんの入院 2 孫子の兵法・介護の兵法 3 倉庫街の悪夢〜家族介護敗北考 GBの二回崩れ 1 介護申請失敗 2 介護無用の老…

27

日常系の怖いストーリー書いてる。
エネルギーたくさん使うなぁ、と実感してる。
『干される恐怖』サイドと『吊るされる恐怖』サイドの非対称性、表現の実験も兼ねててるから分量はそう多くないが、なかなか進まない。
ホラーほんと難しい。

1

対称図・Nの選択6

特待持 成年未満独居者の安全を確認するための査察が入った。 住居における安全性と、私が継続可能な職業に就いているかどうか等の査問がある。 昨年度と同じ査定結果と…

イルカの午睡
2週間前
8

対称図・Nの選択5

“さ”は宛らのさ 短編集の著者校を終えたのは金曜の夕方だった。 次のエッセイの締切はいつだったかなと、スケジュールアプリを開いたとき、着信があった。 知らない番…

イルカの午睡
3週間前
9

対称図・Nの選択4

対角線上の電子key 午前10時前は電話には出ない。 健康管理は大事。 自己管理も大事。 だが。 室内に鳴り渡るドアフォンの音、玄関の向こうから聞こえてくる 「ねーねー…

イルカの午睡
3週間前
8

対称図をマガジンにまとめました。
今のところ3話です。
あと何話か続きます。

イルカの午睡
1か月前
2

最後の攻城戦・Gちゃんグループホームに入る

8月。 Gちゃんは精神病院へ保護入院の身となり、とりあえず酷暑漬けの日々は終わった。 せん妄(幻覚と幻聴)はいまだおさまらず、怒りも減じていない。 私のもとへもひ…

イルカの午睡
1か月前
12

夏の陣・Gの入院

かかりつけ内科医の紹介状を持って、精神病院へ行ったのは午後のことで、外来の患者 さんはひとりもおらず、待合室には私とGちゃんだけである。 「すぐに医師が来ますの…

イルカの午睡
1か月前
10

最終戦 幻覚の夏

Gちゃんは要介護2。 しかし日常のことはほとんどできない。 介護士さんの訪問日数をさらに増やそうかと考えて始めていた初夏。 Gちゃんの幻覚がいよいよ、いけないこ…

イルカの午睡
1か月前
8

米騒動・ツチノコ騒動

Bちゃんは退院後にも、定期的に通院する必要があった。 担当の医師の診断を受けるためなのだが、診断前にX線撮影や血液検査があり、それらの結果が出てからでないと診察…

イルカの午睡
1か月前
6

Bちゃん施設に入る

Bちゃんのリハビリが始まった。 立ったり歩いたりはできないが、ベッドに横たわったまま足を上げたり、腕を上げたり、少しだけ座ってみたり。ちょっとずつ、身体機能が回…

イルカの午睡
1か月前
6

要介護1から要支援1?

松の内を過ぎるころ、さすがのGちゃんも寒さに悲鳴をあげ、ほったらかしてあったストーブを小屋から出して使うと言い出した。 「ファンヒーターでしょ? いきなり点火す…

イルカの午睡
1か月前
12

Gの独り正月

Bちゃんの施設入居が決まったあとで、豊臣による北条攻めの折の徳川本陣跡へ私は再び行ってみた。前年の暮れにここへ来たときは、 「400年と少し前に家康さんがここにい…

イルカの午睡
1か月前
9

人質奪還

GBの世代は(例外はもちろんあるであろうが)高齢者介護施設に対して、いい印象を持っていない。 GBが現役世代だったころ、施設の中の高齢者は蔑視と憐れみの対象であ…

イルカの午睡
1か月前
7

冬の陣・布陣

Gちゃんが不思議世界にどんどん入って行くのと入れ違いに、Bちゃんはゆっくりと浮世へ戻って来つつあった。 11月、Bちゃんは意識がもどる時間が増え、声をかけて手を握…

イルカの午睡
1か月前
8

換気扇・危機一髪

Gちゃんの見守りも兼ねて、私は実家の家の中の片付けを再開した。 ゴミ溜め一歩前の小屋をなんとかしたかったが、ここにはGちゃんの大事な大工道具がところ狭しと詰め込…

イルカの午睡
1か月前
9
カイゴロク記事一覧

カイゴロク記事一覧

目次 
はじめに
 序
1 事変勃発・Bちゃんの入院
2 孫子の兵法・介護の兵法
3 倉庫街の悪夢〜家族介護敗北考

GBの二回崩れ
1 介護申請失敗
2 介護無用の老夫婦
3 Gの入院の効果
4 隠密掃除
5 豆の記憶
6 つむじ曲がりの帰還
7 介護坂は下り坂
8 大崩れ

幕間1
1 生協の変
2 消えた老人と自転車

相模の乱
1 入院前騒動
2 院内マル暴?
3 Bの混乱再び
4 忘却の

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日常系の怖いストーリー書いてる。
エネルギーたくさん使うなぁ、と実感してる。
『干される恐怖』サイドと『吊るされる恐怖』サイドの非対称性、表現の実験も兼ねててるから分量はそう多くないが、なかなか進まない。
ホラーほんと難しい。

対称図・Nの選択6

対称図・Nの選択6


特待持

成年未満独居者の安全を確認するための査察が入った。

住居における安全性と、私が継続可能な職業に就いているかどうか等の査問がある。
昨年度と同じ査定結果となり、継続許可が出た。

「法の定める成年まであと3年ですね。引き続き安全と品行に留意して生活してください」
査察官の台詞も聞き慣れた感がある。

私の場合、特別待遇のソーシャル年齢36はクリアしているが、体格等の面で基準値に満たない

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対称図・Nの選択5

対称図・Nの選択5

“さ”は宛らのさ

短編集の著者校を終えたのは金曜の夕方だった。

次のエッセイの締切はいつだったかなと、スケジュールアプリを開いたとき、着信があった。
知らない番号だ。
不審。
知らない誰かに番号を知られるようなことはないはず。
思い当たるふしがなかったので、着信拒否に回した。

何かお腹に入れておこうかなと冷蔵庫を覗いたとき、また着信があった。
先般押しかけ相談に来たMの番号だ。
依頼された件

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対称図・Nの選択4

対称図・Nの選択4

対角線上の電子key

午前10時前は電話には出ない。

健康管理は大事。
自己管理も大事。

だが。
室内に鳴り渡るドアフォンの音、玄関の向こうから聞こえてくる
「ねーねー! いるんですよね、センセー!」
という呼びかけの繰り返しには負けた。

画面のなかの来訪者の顔に見覚えがない。
誰だろう。

いつもは見知らぬ誰かの予告のない訪問などは無視するのであるが。
「わたしー、Yさんの同僚でーす! 

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対称図をマガジンにまとめました。
今のところ3話です。
あと何話か続きます。

最後の攻城戦・Gちゃんグループホームに入る

最後の攻城戦・Gちゃんグループホームに入る

8月。
Gちゃんは精神病院へ保護入院の身となり、とりあえず酷暑漬けの日々は終わった。

せん妄(幻覚と幻聴)はいまだおさまらず、怒りも減じていない。
私のもとへもひっきりなしに電話がかかってくるが、公衆電話の表示であれば電話に出ないという方針を貫いて相手をしない日々が続いた。

Gちゃんからの電話が鳴るのを耳だけで聞いて、私は次なる戦への備えに移っていった。
入院中であっても、眼科と心臓外来には通

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夏の陣・Gの入院

夏の陣・Gの入院

かかりつけ内科医の紹介状を持って、精神病院へ行ったのは午後のことで、外来の患者 さんはひとりもおらず、待合室には私とGちゃんだけである。

「すぐに医師が来ますので少しお待ちください」
ということで待っていると、3分ほどで先生が見えられた。

診察室ではGちゃんは初めは無言だった。
無理もない、自分が何故この病院で受診するのか、Gちゃんは理解していないのだ。
診察室で医師とGちゃんと私と

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最終戦 幻覚の夏

最終戦 幻覚の夏

Gちゃんは要介護2。
しかし日常のことはほとんどできない。

介護士さんの訪問日数をさらに増やそうかと考えて始めていた初夏。
Gちゃんの幻覚がいよいよ、いけないことになってきた。

電話はほぼ毎日、数回ずつかかってくる。
いわく、
『誰だか知らねえ若いもんが来て、2階で騒いでたから怒鳴ってやったら逃げてった』
『小鳥が郵便ポストに巣をかけて火を噴いてるだ』
『野球のノムラカントクが5球

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米騒動・ツチノコ騒動

米騒動・ツチノコ騒動

Bちゃんは退院後にも、定期的に通院する必要があった。
担当の医師の診断を受けるためなのだが、診断前にX線撮影や血液検査があり、それらの結果が出てからでないと診察が始まらない。

予約をしてあっても3時間待ちはよくあることで、なにせBちゃんはまだ、車椅子に長時間座っていられる体力がないから、診察終わりのころは可哀想なくらいグッタリ…ということになる。

さいわい施設は病院のすぐそばだ。診察が終わると

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Bちゃん施設に入る

Bちゃん施設に入る

Bちゃんのリハビリが始まった。

立ったり歩いたりはできないが、ベッドに横たわったまま足を上げたり、腕を上げたり、少しだけ座ってみたり。ちょっとずつ、身体機能が回復していく。

入院前の状態には戻れないし、自力歩行はたぶん望めないだろう。
それでもBちゃんの表情は日々明るくなっていった。

看護師さんには本当によくしていただいて、ケアのあいだに笑い声がたつ。
Bちゃんは素直にケアを受け入れて、必ず

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要介護1から要支援1?

要介護1から要支援1?

松の内を過ぎるころ、さすがのGちゃんも寒さに悲鳴をあげ、ほったらかしてあったストーブを小屋から出して使うと言い出した。

「ファンヒーターでしょ? いきなり点火すると臭いかもよ。最初の一回は外でやったら?」
と言ったのに、
「でえじょぶだ」
自信たっぷりに室内で点火し、黒煙もくもくの異臭まみれになった。
ゲホゲホッ、言わんこっちゃない。

「バーサンが安物買うからこういうことになるだ」
って、安物

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Gの独り正月

Gの独り正月

Bちゃんの施設入居が決まったあとで、豊臣による北条攻めの折の徳川本陣跡へ私は再び行ってみた。前年の暮れにここへ来たときは、

「400年と少し前に家康さんがここにいたんだ……」感慨。だった。

今回は「一歩前進しました」報告のつもり。でございます。

年が明ければ1月の末にBちゃんは施設に入る。
もうすぐ入居の支度も始まり、手続き、金策と、準備作業に入ることができる。
Bちゃんがショートステイのこ

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人質奪還

人質奪還

GBの世代は(例外はもちろんあるであろうが)高齢者介護施設に対して、いい印象を持っていない。

GBが現役世代だったころ、施設の中の高齢者は蔑視と憐れみの対象であり、
「老人ホーム=姥捨て」
と考えられていた。施設に入るということは、家族に見捨てられ、あとはお迎えを待つだけという印象が強かったらしい(最近でもこの感覚の人はいる。SNSを見ているとたまに見かける)。

さきの夏、Bちゃんをショートス

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冬の陣・布陣

冬の陣・布陣

Gちゃんが不思議世界にどんどん入って行くのと入れ違いに、Bちゃんはゆっくりと浮世へ戻って来つつあった。

11月、Bちゃんは意識がもどる時間が増え、声をかけて手を握ると、弱々しくではあったが指を動かして、反応してくるようになった。
まだ人工呼吸器は取れず、管を口にくわえているので声は出せない。

腹腔内の状態は一進一退からしだいに回復へと好転し、内部の悪いものを外へ出す処置が功を奏し、あらたな抗生

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換気扇・危機一髪

換気扇・危機一髪

Gちゃんの見守りも兼ねて、私は実家の家の中の片付けを再開した。

ゴミ溜め一歩前の小屋をなんとかしたかったが、ここにはGちゃんの大事な大工道具がところ狭しと詰め込んであるので手が出せない。

Gちゃんのお宝満載の小屋は後回しにして、次に気になっていたのは台所の換気扇と調理台下、流し下の開き、床下収納、それと、以前から、

『これはもう、トイレごと捨てるっきゃない!』

と、私が見放したトイレである

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