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現代の海軍が達成すべき任務は何か?

アメリカのロードアイランド州にあるニューポート海軍基地には上級士官を養成する機関である海軍大学校(Naval War College)があります。1884年に創設されて以来、アメリカ海軍における戦略の研究の中心地であり続けてきました。スタンスフィールド・ターナー(1923~2018)は、1972年から2年間にわたって海軍大学校の校長を務めた海軍軍人であり、冷戦期のアメリカ海軍の戦略を方向づけようとした戦略思想家でもあります。

1974年に発表した「アメリカ海軍の任務(Missions of the U.S. Navy)」は、それまでの海軍戦略の議論で使われてきた考え方を見直すことを促したもので、現代の海軍の任務を理解する上で参考になる記事です。

ターナーの見解によれば、海軍が達成すべき任務は、時代の移り変わりに応じて変化してきました。海軍にとって最も伝統的な任務だったのは海上優勢(sea control)を獲得することであり、ペルシア戦争(前499~449)でアテナイ艦隊がサラミスの海戦(前480年9月)でペルシア艦隊を撃破したのは、海上優勢の獲得が軍事的に重要だったためでした。部隊や貨物を船舶で運べるかどうかは、海上交通路を制する能力にかかっていたので、各国の海軍にとって最優先事項だったのです。

しかし、19世紀以降に海軍は水陸両用戦を遂行するという新たな任務を達成することが求められるようになりました。近代的な意味で水陸両用戦が始まったのは、フランス革命戦争以降であり、例えば1799年のイギリスとロシアの連合軍がフランスの占領下にあったバタヴィア共和国(現オランダ)の港湾都市ヘルダーに着上陸したことは、水陸両用戦の先駆けとして位置づけることができます。

また、このような海上作戦を遂行する場合、海上優勢の獲得だけでなく、上陸部隊の掩護が重要な課題です。19世紀は砲艦外交(gunboat diplomacy)が始まった時代でもありました。砲艦外交の目的は戦わずして交渉を有利に運ぶことであり、標的国の近くに艦艇を展開し、威圧することによって行われます。

このような任務の変化に加えて、海上優勢を獲得するための方法にも技術的な変化が生じました。第二次世界大戦で航空機が重要な役割を演じるようになり、敵の政経中枢、後方地域、そして戦闘地域に至るまで、あらゆる場面で運用されるようになりました。

第二次世界大戦を通じて核兵器が開発されると、航空機は核爆弾を運搬する手段となり、核攻撃の能力を持つようになりました。核攻撃の任務に関しては海軍と空軍との間で競合が生じていましたが、1960年代に潜水艦から発射可能な弾道ミサイル(UGM-27 ポラリス)の配備が進み、海軍は空軍に並ぶ核抑止力の担い手としての地位を固めました。

このような経緯を踏まえれば、アメリカ海軍が達成すべき任務は少なくとも4種類に区分することが可能です。一つ目の任務は戦略的抑止(strategic deterrence)であり、これは核兵器を使用した第二撃を加える態勢をとること、危機が生じた際に注意深く制御された反応をとること、武力紛争に第三国が干渉する事態を抑止すること、勢力均衡の安定を図ることによって達成が期待されています。

二つ目の任務は海上優勢の獲得であり、これは伝統的な制海権(contorol of the sea)と少し意味が異なります。というのも、伝統的な制海権の獲得には敵の脅威を完全に排除し、海路を絶対的に支配する意味合いがありましたが、海上優勢という新しい用語には、限定された領域、限定された時期において、より現実的な管制を実施する意味が込められています。つまり、それを達成するための条件は必ずしも敵の脅威を完全に排除する必要はなく、ある時期、ある場所で敵に海路の使用を拒否(denial)するだけでも達成が可能な場合があります。

三つ目の勢力の投射(projection of power)も海軍の重要な任務であり、水陸両用戦がその典型ですが、必ずしも地上部隊を上陸させることだけが勢力の投射ではありません。空母から発艦した航空機を運用することによって、敵の後方地域を叩く航空阻止、戦闘部隊を攻撃する近接航空支援、そして航空優勢を獲得するために行われる対航空が可能となります。航空機によって政経中枢を空爆することも現代の海軍の任務として位置づけることができます。

四つ目が海上プレゼンス(naval presence)であり、これは敵国を抑止するために使うこともできますが、同盟国や友好国を支援するためにも使うことが可能です。これは戦闘によらずに国家の外交交渉を支援することに寄与する活動です。

ターナーは、歴史上の軍隊が特定の任務に専念するあまり、それ以外の任務を達成するために必要な能力を軽視するようになり、特定の装備、艦艇、戦術に固執する危険を指摘しています。長期的な海軍の発展のためには、その任務の多様さを理解することが重要です。そのような意味で、ターナーの考察は海軍の戦略を研究する人々にとって有意義なものであると思います。

見出し画像 by Petty Officer 1st Class Ace Rheaume

参考文献

Turner, Stansfield (1974) "Missions of the U.S. Navy," Naval War College Review: Vol. 27 : No. 2 , Article 2.
https://digital-commons.usnwc.edu/nwc-review/vol27/iss2/2

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