【僕の好きだったもの④「宮本輝」】

書いてて愉しい、第4弾。今回は好きな作家です。
---
宮本輝が好きだ。初めて手にしたのは、『青が散る』。
中2の頃、テニス部で中体連に向かって連日練習に励んでいたころ、
大学テニス部を舞台に描かれたこの作品にのめり込んだ。
丸刈りの部活仲間の間では、この文庫本がボロボロになるまで回し読みされ、各々の感想が裏表紙に書き込まれていた。
青春の思い出。
-
その後、すべてではないが、宮本輝の本を頻繁に手に取るようになった。
何で好きになったのだろうか。
-
「いのち」とか「人生」とかをじんわり考えさせられることの多い作品群。
美辞麗句を並べた”名文”を書かない、というのが宮本輝氏のポリシーらしく、
派手な文体や語彙なしで、読む者の心を揺さぶる技量。
-
そして、静かに進む物語が多いのに、読んだ後は力が湧くというか、人生、この一瞬が愛おしくなるというか、力を与えてくれる。
僕の人生観や世界観に、かなり影響を与えた作家だ。
-
人生ってなんだろう?自分と他人とは?いのちの意味は?
物語を通じて、自然に考えるよすがをくれた宮本輝作品。
いろんな人生がある。みんながひたむきに生きている。
困難や厳しさに遭っても、人とのかかわりあいの中で、命がキラキラとしてくる、そんな読後感をくれる。
-
これはまた、本当に多くの愛読者がおられると思うので、またじっくり語れるときを楽しみにしております。
-
はい、恒例の独断によるベスト5。
-
⑤『青が散る』
部活仲間で読み耽った。出逢いの一冊。ジャケットも印象的。
新設の大学に入学した主人公燎平とその仲間たちが、テニス部の立ち上げの奮闘を中心に々の葛藤と、人生の巡り合わせ、不条理さと向き合い、時には傷つきながら少しずつ大人の階段を上ってゆく様を描いた作品。
夏子という美しい女性に恋焦がれる主人公の葛藤も、胸を締め付けられる。
-
④『灯台からの響き』
こないだ読んだ作品。死んだ妻の遺した一枚を手掛かりに、主人公は灯台巡りを始める。そこで色んな境遇の人間たちに出会う。人間っていいな、と、支え合う、いたわり合うことの深さを、改めて感じさせてくれて、読んだ後になぜか力が湧くような一作。
-
③『春の夢』
亡き父の借財を抱えた大学生の部屋には、釘で柱に打ちつけられても生きている蜥蜴の「キン」がいる。
解き放たれた蜥蜴のキンちゃんをめぐるラストシーンが印象に残る。
「勇気、希望、忍耐。この3つを抱き続けたやつだけが、自分の山を登りきりよる。どれひとつが欠けても事は成就せんぞ。」
-
②『錦繡』
物語は蔵王のゴンドラ・リフトから始まる。子供の手を引きながら乗り込んだ亜紀は、ゴンドラの中で10年前に別れた夫に偶然再会する。そこから亜紀と靖明の文通が始まる。
これは引き込まれる。過去に何があったのか。どうして別れなければならなかったのか。
美しい描写と書簡。SNS時代にはもうないのかな。
-
①『優駿』
ベタかもしれないが、やはり王道。濃密な小説。面白い。
馬と騎手も大変な稼業だと思いながら引き込まれる。
勝ち負けの世界の厳しさ。人は強くないと生きていけない。人間のイヤなところ、汚いところ、もあぶり出される。でもそこに愛と純粋さも根底になければならない。映画にもなりましたね。
-
このほか、『命の器』というエッセイ集も好きだった。宮本輝氏の人生が垣間見える。思索の根源に触れることのできる秀作だ。
-
僕は比較的若い時期に、宮本作品を読むことが多かったが、思えば、歳を重ねてからも響く作品が多いように思う。日々の繁忙さの中でも、小説に目を通す時間を確保したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?