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もう一つのゲットー発ダンスミュージック、ハイチの Raboday

今年からハイチやフレンチカリブの島々の音楽を演奏するバンドTi punchというに所属しています。そのライブで配布されるブラックジャコバン通信というジンがあって、その中で自分が担当しているのが、「もう一つのゲットー発ダンスミュージック」というシリーズ。本誌はライブ限定配布ながら、自分の原稿はweb上でも見てもらえたらと思って第一弾をnoteにあげてみます。

ー以下ブラックジャコバン通信よりー

ラテンアメリカ~アフリカのゲットーから発信されるご当地ダンスミュージック。その予想の斜め上をいく斬新な音づかいや、ダンサブルな打ち込みビートにハマっているDJ・リスナーも少なくないと思います。少し前に流行したブラジルのバイレファンキ、南アフリカのゴム、ドミニカのデンボウ、タンザニアのシンゲリなどが記憶に新しいでしょうか。今やヒットチャートの常連となったレゲトンも初期はそんな感じでした。

そのハイチ版と言えそうなのが今回ご紹介するRaboday。アフリカ色濃厚な打ち込みビートにいなたいメロディーがのるインパクト大な音楽です。youtubeか何かで知って以来ずっと気になる存在ながら、クラブDJ界隈で紹介されているのも見かけないし(見過ごされている?)、いろいろと謎も多い。ということで、これを機会に調べてみました。

手始めにWikipediaをみてみると、Rabodayは「Rasinがエレクトリックになったもの」とあります。Rasinは70年代にブードゥー音楽といろんな音楽が混ざってできたもので、歌詞に政治的なメッセージを込めるのも特徴の一つだそう。Rasinのバンドで代表的なのといえばBoukman Eksperyansでしょうか。1991年作でグラミーにもノミネイトされています。

2015年にBuzz feed Newsというサイトに掲載された記事「How Disaster And Tragedy Spawned A Radical Music Movement In Haiti」は、Rabodayの起源はハイチ以前からの音楽「Rara」だとしています。先住民のタイノ族の音楽と奴隷によってアフリカからもたらされたリズムが混ざってできたブードゥー教のカーニバル音楽で、リズム楽器と竹の管楽器などで演奏されます。そのドラムのリズムにはアフリカにさかのぼる名前と文脈があり「Raboday」ものそのひとつとして長いあいだ親しまれてきました。

バンド演奏によるRabodayがエレクトリック化したきっかけもまたアフリカと関わっています。ウェブマガジンUrbania「MUSIQUE DU GHETTO: RABODAY」によれば、2000年代中頃にアンゴラ人Costuletaの「Tchiriri」 という曲のヒットを皮切りにハイチでアフリカの打ち込み音楽Kuduroが流行し、そのKuduroとRabodayが似ていると気づいたハイチのプロデューサー達が自作の打ち込みRabodayを作るようになったというのです。

2010年にハイチで大地震がおきます。King of Rabodayとして知られるFreshlaが震災後の夏にリリースした「Boule Jou」という曲は、日々を最大限に楽しむことについて歌い、震災で疲れ果てた人々にとっての夏の賛歌になりました。また死者・生存者の名前を歌詞にしたというTony Mixの「Enba Dekonb(瓦礫の下で)」というヒットも生まれました。

「Boule Jou」のプロデューサーG-dolphは、自身の作る打ち込み音楽について「これは何という音楽か?」と聞かれた際、Rabodayだと答えています。彼はRaraやブードゥーの影響を受けていて(特に習ったわけではないけど)そのスピリットや基本的なドラムビートを受け継いでいると話しているので、従来の生演奏のrabodayと打ち込み以降のRabodayは、名前を借用した以上のつながりがありそうですが、それについてはまた機会があれば。

地震の復興と時を同じくしてFreshlaやTony Mixのヒットが出たのに加え、Freshlaの「Kite Ti Pati'm Kanpe」といったRabodayの曲がカーニバルで注目されたことも後押しとなって、コンパやラップクレオールといったような他のハイチ音楽と並ぶカテゴリーとして知られるようになっていきます。

最後に最近の動きも少々。ますはハイチからアメリカに移住しRabodayにかぎらずヒットを飛ばすMichael Brun。アフリカのGuiltybeatzとコラボし100万再生を記録した「akwaaba ayiti」はモダンでアフロビーツ色の強い音が出色。その他にも、デンボウやバチャータといったドミニカの音とミックスするAndybeatzやColmix、飛び抜けてポップなLoji Babyなど新しい才能が次々と出てきていて、しばらく目が離せない状況が続きそうです。

と、急ぎ足でRabodayを紹介してきましたが、蘊蓄はさておき音を聞いて頂くのが何よりでしょう。最近のお気に入りをプレイリストにしてみましたので、よかったらお試し下さい。(Spotifyを利用の方はQRコードからどうぞ。)

01 Michael Brun / Akwaaba Ayiti
02 Tony Mix / Gouye
03 Dadbeatz / Raboday Pinches Culero
04 Shassy, J Vens / Ti Mamoun
05 Steves J. Bryan / E Mwen’l Ye
06 Dadbeatz / Raboday Matata Afro
07 Sambymix / Ti Sesi Ti Sesi
08 Steves J. Bryan / Awoyo
09 Colmix / Matel boom
10 DJ Bullet / Yo Mele Raboday
11 Marinad 007 / Pa Relem Papa
12 DJ Lovy / Justesse
13 Loji Baby / Tololo
14 Andybeayz / Banm bill map peye

以上、拙文失礼いたしました。また機会があればフランス海外県レユニオンはアフロダッチシーンの要注意人物DJ SEBBあたりを紹介したいですが、はたして次回ありやなしや。

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