9.薬と効用と副作用
入院翌日からはMRI検査、心電図測定、採血、歯科、眼科検査などが行われ、慣れない病院着を着て動き回りました。また今回治療に使う分子標的薬「ジオトリフ」という薬の説明を受けました。EGFRという遺伝子変異の陽性を示す肺癌患者に対し、投与服薬する薬とのことです。(実はこの時点、またその後の検査でも私はEGFR陰性判定が続いてしまうのですが)前年に日本でも承認された新しい薬です。一つでも新薬が生まれ、活用できることは喜ばしいことです。副作用としては、下痢や発疹等の皮膚障害、爪囲炎、深刻な間質性肺疾患、肝機能障害など。
「個人差はあるが、多くの副作用を伴うであろう」との説明でした。
抗がん剤はそもそも、毒ガス兵器からヒントを得て生まれたもので、使用された兵士達の白血球減少に着想して開発されたものである、ということを本で読んだことがあります。但し癌に合わせて設計されているので、癌の直接のダメージを受けるよりも副作用は大きいとは言え、使用する方が今後の身体への影響、また癌の縮小、改善のメリットを受けられるようです。
しかし確かに、その副作用は筆舌に表しがたい厳しい状況を身体に与えるものです。
私は最期は、わかりませんが、希望として、吐き気等で苦しみ、全身の毛も抜けベッドから起き上がることもできないような副作用に苦しむ種類の抗がん剤は回避してもらいたい旨の我儘を今まで通してもらっています。
そのことは担当医師も治療に制限がかかるとして困惑されていることと思います。脱毛などの精神的、対外的衝撃は私にとって最大級の事項なのです。今回は分子標的薬での治療であり、そこまでの危惧は回避できましたが、これからの様々な薬剤治療に臨むにはある程度の「覚悟」も必要のようです。治療の目的、効果の有無、症状の緩和具合、延命などに期待して副作用という苦痛を引き受ける心の準備はしておくべきでしょう。私は若干の不安のみで覚悟も足りないままに臨んできたようです。
分子標的薬「ジオトリフ」を服用した二日後には、案の定、最初の副作用として下痢、顔、身体などへの湿疹という皮膚異常が現れました。
その後にだんだんと拡がり、特に手足の指に大きな痛みと障害を与え、2度ほどこのジオトリフ服用も中断せざる得ない状況にもなりました。
その治療の為、約1年半程の間、同病院の皮膚科外来にも通院治療を行うことで、何とか痛みも腫れも次第に落ち着き始めました。
一方ではジオトリフの服用による効能として早くも3日目には医師から「検査の結果、肺の腫瘍が小さくなっている」との嬉しい言葉があり、副作用はあるものの、私の身体の中でこの薬が効果を上げ、変化をもたらしていることに驚きを感じざるを得ませんでした。
翌年(2016年3月、服用後8カ月)の腫瘍マーカーの数値はCEA5.4、シフラ1.34まで下がり、目覚ましい効果を授かることができました。しかしながら、このジオトリフも薬剤耐性の影響で次第に効果が薄れていき、暫くすると「腫瘍が少し大きくなっている」との話で、残念ながらこの薬の使用も中止となってしまいました。
またこの最初の入院時には同時に骨への転移部の改善の為、毎月2度ほど「ゾメタ」という薬剤の静脈点滴もはじまりました。
この治療は数年に及ぶのですが、後日大変な副作用を伴うことになるとは知る由もありません。
この最初の入院、治療において、大変お世話になりました医師の方達、またインターン(今では立派なドクター)そして看護師の方にはその後お会いする機会も少ないのですが、もしお目にかかることがあれば「まだ頑張って生きています。」とお伝えできる機会があればと思います。
さてカルタでよく見かける「鬼は外、福は内」の絵には、豆をぶつけられて泣いて逃げていく弱虫な鬼、鬼退治が必要な意地悪な鬼など、鬼にもいくつかのパターンがあります。うちの鬼に金棒を持たせたら、さて、どっちの味方をしてくれるのやら。
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