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やはり筋トレは楽しくない

根からのスポーツ嫌いの37歳男が、1年間のジム通いを継続できた経験を振り返り、その過程で獲得した 楽しくないけどやったほうがいいこと を継続するためのマインドセットについて書きます。

世にはスポーツや筋トレが好きな人がその素晴らしさを語り、初心者に対して参入を勧める文章や動画は数多あれど、僕のような その楽しみが全く感じられない人間 が語る小さな成功経験にもそれなりの価値があるのではないかと思いました。

以下、僕の運動・スポーツに対する苦手意識や劣等感を率直に語るため、好きな人にとっては不快な表現も含まれると思いますが、そんな僕でも継続できたという強調のための表現としてご容赦頂ければ幸いです。

根からのスポーツ嫌い

僕は幼少の頃から成人に至るまで、可能な限り運動という行為を避けて生きてきた。

小学校の頃は逆上がりはできなかったし、一輪車も壁から手を離して乗ることはできなかった。走り方も何やら変らしくよく友人らに笑われていた。サッカーなどの団体競技は最悪で、下手くそな自分が存在することで周囲に気を遣わせてしまうのが本当に苦痛だった。

中高でも運動嫌いは変わらず、大学に入ってからも「スポーツ身体運動」なる必修科目が憂鬱でしょうがなかった。可能な限り出席せずギリギリで単位を取ろうとしのぎを削っていたため、しばしば単位を落として留年する悪夢を見た。今でも精神的に疲れるとその夢を見てうなされることがある。

スポーツにまつわる精神論や根性論も苦手だ。スポーツ観戦にもほとんど興味がない。高校の頃に日韓W杯があり、同級生らと盛り上がるフリをしてみたが、日本が敗退して葬式のようなムードになり、こんなことに感情を消費するのは無駄だと思った。オリンピックも見ていない。

そうはいっても自分も一つの肉体的存在である以上、運動不足によるリスクが存在することは分かる。成人してから何度かジムに入会してみたりしたが、やはり全然続かなかった。「月会費を無駄にしている」程度の感情は、鈍い身体を動かし意図的に疲労を与える反復作業を推進するのには弱すぎるのだ。

コロナ禍での意識の変化

そんな風に生きてきて30代も後半に。意識の変化を余儀なくされたのはコロナ禍だった。2020年4月からの緊急事態宣言下で、運動不足と先行きの見えないストレスによる食べ過ぎで、一ヶ月後には目に見えて肉体が肥大化していた。

当時は大学院に進学して5年目、博士課程の2年目に入ったばかりの時期であった。 5月末に緊急事態宣言も解除され、ある程度冷静に先のことを考えられるようになったとき、ふと強い危機感を覚えた。

この状況が続いたら心身ともに衰弱してしまう。もし1年後に差し迫る博士論文の追い込み時期に戦う体力も気力もなくなってたら修了できなくなってしまう、と。

これは困る。なんとしても回避せねばならない。しかしコロナ禍でジムは休業中だ。一人で自宅トレーニングは続けられる気がしない。どうしよう。

そこで改めて、なぜ自分は運動が継続できないのかを冷静に分析してみた。

これまでの自分は、大人になってから英語や数学の必要性を再認識し、意を決して学習ドリルなどを買ってみるものの、モチベーションが続かず挫折してしまう人と失敗の構図が全く同じだということに気づいた。

もし目の前に「数学を勉強しなきゃいけないんですけど、全然続かないんです…」と困っている人がいたら、僕はなんとアドバイスをするだろう。

「苦手なことを一人でやろうとしても、まず楽しくないし、間違ったやり方をしていても気づけない、行き詰まったときにも助けてもらえないんだから、厳しいですよね。今は社会人向けの学習塾も色々とあるし、学習のモチベーションをあげて正しい指導をしてくれるメンター を探した方がいいと思います。」

こう言うに違いない。この「学習」を「運動」に置き換えて自分に適用すればいいだけだ。しかしジムでパーソナルトレーナーをつける手段は取れない。どうしよう。

コロナ禍で、社会のオンライン化は一気に加速した。変化が遅いと思われた大学でも Zoom がいち早く取り入れられ、講義やセミナーはオンラインで行われるようになった。テクノロジーから最も遠いようにお坊さんたちですらオンライン坐禅会を始めている。

パーソナルトレーナーたちだって、オンラインサービスを始めているに違いない。

そこで自分で調べたり知人に紹介を求めたりして、ついにオンラインでもパーソナルトレーニングをやっている一人のトレーナーさんと出会うことができた。

オンライントレーニングの心理的安全性

2020年7月から、そのトレーナーさんの元で Zoom 経由のパーソナルトレーニングを開始した。自室にマットを敷いてウェブカムで映し、画面越しからトレーナーさんの指示を受けて、身体を伸ばしたり動かしたりする形だ。

鈍った体を動かすのは大きな疲労を伴うものであったが、完全にプライベートな空間でトレーニングを受けられるのは心理的にとても安全だった。ジムみたいに他人の目を気にせずに済む(別に誰も見てない訳だけど)。それに家だと移動の負担もないし、終わったらすぐにシャワーに入れるのが良い。

オンライントレーニングは隔週で行い、その間は一人で自重トレーニングを行う。これを二ヶ月ほどやって、これなら続けられそうだと思った。食事に気をつけるようになったこともあり、順調に体重も落ちて行った。

トレーナーさんに成長を褒めてもらえるのは単純に嬉しかった。

トレーニングとダイエットの成果

ジムでのウェイトトレーニングへ

2020年最後のトレーニングは、直接お会いして対面で行うことにした。場所は雑居ビル内の小さなプレイベートジム。せっかくなので自宅ではできないウェイトトレーニングをやってみることにした。重量を目標にするのは成長が実感しやすく、継続のモチベーションにもなって良さそうだ思った。

ところで画面越しでは分からなかったのだが、トレーナーさんは物凄く迫力のある肉体をしていた。男でもこんなプリケツになるのかと。それにも関わらず(?)知的で穏やかで、押し付けがましさが全くない人だった。

翌年から学内ジムの年パスを取得し、ウェイトトレーニングをやっていくことにした。パーソナルは対面で月一、学内ジムは週一で土曜、残りは平日に自宅で筋トレというルーティンでトレーニングを続けた。

その後また何度か緊急事態宣言があって、せっかく通い始めた学内ジムが閉鎖されてやる気が潰えそうになったこともあったが、月一でトレーナーさんに見てもらっていたお陰でなんとか一年間継続することができた。

一年間の成長の記録(ベンチプレス)

効果

当初より筋トレの目的は、研究・論文執筆のため体力を向上させることであった。実際に筋トレを続けて得られた効果は:

  • 疲れにくくなった(より勉強・研究に集中できるようになった)

  • 肩が凝りにくくなった(肩こりは数学の最大の敵だ)

  • よく眠れるようになった(頭が冴えていないと数学はできない)

加えて筋トレというサブ目標ができたことで、研究に行き詰まったときの息抜きになった点もよかった。努力の甲斐あって、一年間体調を崩すこともなく、2021年末には博士論文を書き上げることができた。

筋トレを続けて良かったと素直に思う。

それでも…

やっぱり筋トレは全然楽しくない… もう本当に楽しくない。

成長を実感できれば楽しくなるなんてのは嘘だ。何の目新しさもないただ疲れるだけの機械的な反復運動、これの何が楽しい。せめて電力の足しにでもなればいいのだが…あー、楽しくない、マジで楽しくない。

昨年の11月頃、いよいよどうしようもなく嫌になって項垂れていたとき、ふと思った。

別に楽しめなくて良いんじゃないか。

筋トレ YouTuber たちのような、筋トレが楽しくて仕方ない境地 になんか達せるはずがない。だって生まれ持ったものが違うんだから。既に筋トレのメリットは実感できていて、モチベーションを与えてくれるトレーナーさんがいるんだから、それで十分じゃないか。

内発的な動機は、数学にだけ向けていれば良い。
筋トレはそれを持続させるためにやってるんだ。

こう考えたら少し楽になった。

「楽しめない人」が続けるためには

僕は数学が専門なので、数学が好きだし、周りにも数学好きな人が多い。数学好きな人たちは目を輝かせて言う。

数学は楽しいよ! 数学は物理・経済・コンピュータなど、あらゆる分野で役に立つ。論理的思考力や空間的想像力も養われるし、みんなもやろうよ!」

でもこれって、筋トレが好きな人たちが言う、

筋トレは楽しいよ! 人間のあらゆる活動は肉体を使うんだから、筋トレは全てのことに役に立つ。健康にも良いしモテるようになるし、みんなもやろうよ!」

とパラレルだなと思った。苦手な人からしたら、こういう主張は劣等感への圧力にしかならないのかも知れない。

得意な人たちが主張する「やったほうがいい理由」に嘘はないのだろうし、その楽しさを広く伝えることももちろん良いことだ。しかし、人は苦手なことは楽しめない、これも一つの真理だろう。

楽しみながら取り組めることがあるならそれは素晴らしいことだ。一方で、人生には 楽しくないけどやったほうがいいこと もたくさんある。それをやろうとするなら、元からそれを楽しめる人には必要のない 継続戦略 を立てる必要がある。

僕が筋トレを通して獲得した 継続のためのマインドセット はこんな感じだ:

  • それをやるべき理由をちゃんと納得する

  • 一人では継続できない弱さを認める

  • 継続を自動化するための環境に身を置く

  • 楽しさをやる気に変えることは諦める

  • 自分の成長だけ見る、決して他者と比較しない

逆に挫折しやすいマインドセットは:

  • みんなやってるから自分もやらなきゃと思う

  • 続けられないのは意思が弱いからだと思う

  • 人に頼らず自分だけで頑張ろうとする

  • 楽しめず、やる気が出ないことを嘆く

  • 自分と他者を比較して落ち込む

こういうことが分かったことも、全然楽しくない筋トレを継続してよかったことの一つかも知れない。こんな分かったようなことを書きながら、この先も続けられる自信は全くない訳だけど、忘れてしまわないように書き残しておくことにした。


最後まで読んで頂きありがとうございました。
よかったらコメントで皆さんの考えも聞かせて下さい。

追記 (2022年2月10日)

たくさんの方に読んで頂き嬉しいです、ありがとうございます。Twitter や はてブ でも皆さんのコメントを読ませて頂きました。

たかが一年続いた程度で分かったようなことを書くのもどうかという思いもあったのですが、共感して下さる方や、筋トレ歴の長い方で前向きなコメントを下さる方もいて大変励みになりました。

継続のためのマインドセットに、

  • ストレス要因をできるだけ減らす

も追加したいと思います。例えば、朝スポーツウェアに着替えてから筋トレをするのは面倒なので、寝巻きのままやってしまう、とかその程度のことです。

好きになることはできなくても、嫌いになる要因を減らす努力はできる、ということですね。

それでは、今日も朝トレをやっていこうと思います…😞(ため息)

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