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時間を、剥がす

今、引越をしている。
昨晩の夜に冷蔵庫の電源を引き抜き、今朝から荷物を段ボールに詰め、いらないと判断されたものを捨て、先ほど引越屋さんがトラックに段ボールを詰め込みはじめた。
引越の準備をする中で、家の中には呆れるほど使われていないものがあった。捨てても捨てても荷物はまだ沢山あった。

捨てたものの一つに、トイレに貼られていたシール達があった。
これは、子供がまだトイレトレーニング、いわゆるトイトレをしてる時のご褒美のシールだった。

トイトレは苦しい時間だった。全然出来るようにならない。
これまでオムツで出していたところをトイレに行くようになることは、息子にとって面倒で嫌なことだった。連れていくたび嫌がられて、出して欲しいものも出てこないと親は疲れる。さらに、妻と自分の進めたいペースと、保育園の足並みが揃わない。
そんな時の支えになったのがシールだった。頑張ってトイレに跨ったら、好きなシールを一枚貼って良い。息子は、何かやったことでもらえるシールやメダルが大好きだ。シールの誘惑でなんとかトイトレは続けられた。

結局、トレーニングの甲斐があったのか、なかったのかもわかないうちに、突然息子はトイレに行くことに目覚め、はじめは小、次は大に行き出した。
追加のシールも貼られなくなった。
だが、一度貼ったシールはそのまま残り続けていた。

先ほど、そのシールを一枚一枚剥がし終えた。
あのシールは、今となっては無意味で、いらない物だった。
でも、それらは過ぎた時間をまとっていた。一枚一枚息子が貼ったシールが積み重なり、壁を彩っていた。

全てのシールを剥がし終えて、私たちが6年過ごしたマンションは、また一歩「私たち」のマンションではなくなった。

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