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お世話になった魔法使い!

 私は昨年まで40年近く洋菓子職人として働いていた事は他の記事でも述べたが、入社1年目の修行時代の話をしようと思う。
 まだ年号が、昭和のころ、パワハラ、セクハラがまかり通っていた時代で、まさしく今でいうブラック企業があたりまえに存在していた。私の働いていた会社も朝7時から夕方4時半が一応の表向きで、タイムカードはその時勝手に押され、その打刻から8時間近く働く!もちろん無給で、しかし、文句を言うものはおらず、正確には文句を言うものは辞めてここにはおらず、この会社のケーキが好きで、何とか技術を身につけてやろうという職人集団だった。
 故に、先輩や上司達のあたりも強く、端から見て、耐え難い場面にも遭遇していた、当事者として、私には特にあたりがキツかったように映っていたらしいが、私自身は何とも思ってなかった。ただ自分が上の立場になったらこんなことはやめようと、たしかに体力的には少しグロキってフラっていたが。
 この会社には職人ではないが私を紹介してくれた企画部長がいた。彼の事は直接の知り合いではなかったが遠い親戚にあたるスナックの常連客で、  ママさんからいつも私の事を聞かれるからか、ふらふら足の私を心配そうに
見守ってくれていることには気付いていた。

 企画部長は元々プロのマジシャンでエンターテイナーで、ここで働かれる前は百貨店の手品用品売り場でデモンストレーションをしていたらしい。その時、この会社の社長にスカウトされたようだ。
 入社半年後、20人いた同期は12人になっていた。 
 いつものように裏のゴミ箱小屋にゴミを運ぶ途中、企画部長に声をかけられた。「よう頑張ってるみたいやなぁ!」がらがらの大きな声で、部長は身体は小さいが声は大きい。顔はひんそだが口髭はかなり立派である。若い頃のチャールズブロンソンに髭だけは似ていた。がらがら声の話は続く「なんか困ったことないか?」「なんかしてほしいことないか?」日頃からビッグマウスのこのマジシャンは「わしは魔法使いや!何でも消せるで!」というような感じで、しかし関西弁と魔法使いはうまく結び付かない!

 私は「何でも消せるならこの工場消して下さい!」 魔法使いが「なんや、そんな追い詰められとんか?」っと少し心配そうに応えた。すると、「エエぞ!一億円持ってこい!そしたら消したるわ?」とおっしゃったので、
「一億円か。 今100円しかないんで、そのヒゲ消してもらえます?」
 すると表情が変わり「お前なぁ!」と心配して損した顔になっていた。
 二人しかいないはずのその場に、「ケャッ、ケャッ、ケャッ、ケャッ、」という独特の笑い声がコダマスル。2階の窓から、本部長がのぞいていた。
 緊張から解放されたつかの間の時間。
     ありがとうございました!!

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