おでんを初めて作ってみた話。
大好きだけど、自分では作れない料理だと決めつけているものが、私にはけっこう多い。
その一つがおでんで、なんとなく素人が手を出してはいけないものだと勝手に思っていた。昆布出汁をとって、さらにかつお出汁を合わせたり(?)何らかの高等な技術が居るものだと思っていた。
実際作ってみると、おでんはぜんぜん難しくなかった。本格的に作ろうとすれば、どこまでも凝ることはできると思うけど、スーパーにはおでんセットが売っている。
何種類かの練り物が、ずらっと並んでいるパックを買えば、もう大丈夫。希釈して使える汁も入っていたので、いちから出汁を取りはじめなくても良い。がんもにはんぺん、こんにゃくにさつま揚げ、餅巾着だって入ってる。
スーパーで見たときは、縮こまったちいさな練り物たちに薄くしょんぼりしていたけれど、だし汁の中でふかふかに膨らみ、たっぷりの煮汁を湛えた世にもおいしい具材に化けるさまには感嘆した。たのしい。くつくつ煮える音も、ゆっくりと透きとおっていく大根の様子を見るのも「おでん、やってるねー」という感じがしてうれしかった。
大根とゆで卵だけは自分で準備した。ざくざくと2センチ厚くらいに大根を切って、十字に隠し包丁を入れる。
8分ほど下茹でしてから、大根を弱火の出汁の中に泳がせておくと、45分後にはほろほろ。完璧なおでんの主役に変貌していた。すごい。こんなに早く味が染みると思わなかった。
あらかじめ茹でてから、合流させた卵も淡く出汁の色に染まっており、お椀の中でつゆの中に割り溶かすとじんわりと黄色が混ざる幸福といったらない。ほかほかのおでんは、たぶん9月には早い。でも、今作ってみてよかった。残暑のなごりを押しのけて、思い切って作ってみてよかった。
まだまだ試してみたい具材がたくさんある。ロールキャベツをこしらえてみたいし、牛すじなんて、おそらく生まれてこのかた食べたことがない。丸のままのじゃがいもも、どぼんと投入したい。糸こんにゃくを結んで、気ままに泳がせたり、ふかふかの厚揚げもたっぷり入れたい。
まだ見ぬ具材にときめきながら、おでんを何度もなんども作ることができる完璧に涼しい気候をたのしみにしている。