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【第15話】えっ、遺骨を食べる!? 日本にある驚きの風習と、火葬場で起きた遺骨を巡る哀しい修羅場【下駄華緒の弔い人奇譚】

―第15話―

みなさん、人骨って食べたことありますか?

日本国内では一部の地域で「骨噛み」と呼ばれる遺骨を噛む(食べる)風習があるそうです。
本当に葬儀の世界は色んな風習があって、例えば火葬してからお葬式をしたり、四十九日の間に山に向かっておにぎりを投げたり、全国的によくやるのは故人様のお茶碗を割ったり……。
今回はその中でも骨を食べるということについて触れたいと思います。

風習とは関係なくお骨上げの時にたまにあるんですが、ご遺族の方の一人がこっそり、骨をパク! っと食べることがあります。(おそらくご本人は風習ではなく個人の考えで行なっている)
わざわざ統計をとっている訳ではないのですが、経験上、そういう感じで骨を食べる人の割合は男性が多い気がします。

火葬場職員としては黙って見守ってはいるのですがご本人は周りにバレないようにサッと食べるんですよね。
こちらとして不安なのは、その時に素手で遺骨を触ったりするので火傷の恐れがあることですね。さらに、あんまり手早く拾い上げて粉塵が舞ったりするのもあまりよろしくないように思います。

なぜかと言うと我々火葬場職員はお骨あげが終わって遺族さん達が帰った後、台を掃除するのですがその際に骨の粉塵が大量に舞う事になります。
が、実はその粉塵を顕微鏡などで見ると、とても鋭利で尖っているんです。なのでこういった粉塵が目や喉に入ると粘膜等を傷つける恐れがあるので職員は掃除の際に必ず防塵マスクと防塵メガネを着用します。

なので、粉塵が舞わないよう通常は遺骨を触る際はゆっくり丁寧に触るのですが、周りにバレないようにサッと遺骨を取ったり急いで割ったりすると粉塵が舞います。ですが、残された者たちの気持ちを考えると‥そこまで敢えて口出しはしないようにしています。


そしてある時、珍しく30代くらいの一人の女性がお骨あげ中にパク! と何かを口にするのを見ました。
「ああ…」と思いつつ、気にせずお骨上げを続けていたのですがどうやら様子が変なんです。周りの人目を気にしてチャンスをうかがい、パク! とまた食べる、またパク! っと食べる。
何度も食べるんです。

しかも僕が見るに、その食べているものが骨じゃないんです。
確かに、台の上からとって食べてるのですが、明らかに骨ではなく何かの金属だったりガラス質のものだったり……
それに気づいてから「え?」と思い、さすがに声を掛けようかと思った瞬間「ちょっと!やめなさい」と60代くらいの女性が注意してくれました。きっと母親なんでしょう。

そしてお骨あげが終わり遺族さん達が帰った後、どうやら火葬場の出入り口辺りで叫び声が聞こえました。
「なんだろう?」と思い同僚と二人で向かったところ、先程の遺族さん達がなにやら揉めているようでした。

「もう嫌ぁ!死ぬ!」

と、叫んでいるのは先程の骨「以外」を食べていた30代の女性。それを取り押さえて落ち着かせようとしている男性達、泣いている母親。その時に思ったんです。

「ああ、この人は死にたくて敢えて骨じゃない物を食べていたのかな…」と。
なんとも、悲しみというのはここまで人を追い詰めるのだなぁと、より深く認識できた出来事でした。


著者紹介


下駄華緒 (げた・はなお)
2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。