大森望『ベストSF2021』序

書影_ベストSF2021_カバー

新たな日本SF短編年間ベストアンソロジー《ベストSF》シリーズの第二巻となる『ベストSF2021』をお届けする。二〇二〇年(月号・奥付に準拠)に日本語で発表された新作の中から、「これがこの年のベストSFだ」と編者が勝手に考える短編十一編を収録している。
 なによりも、本書は〝SF〞という概念の開発と拡張を目的として制作された――というのはウソですが(元ネタは樋口恭介編のアンソロジー『異常論文』の巻頭言)、結果的に、SFという概念の開発と拡張がなされていることは、おそらく否定できない事実である。
 実際、作品を選んだ時点から半年以上経ったいま、あらためて収録作を読み返してみると、作品のジャンル的な幅の広さに驚かされる。
 エッセイのように始まりエッセイのように終わる(ただし、真ん中がエッセイかどうかはよくわからない)円城塔「この小説の誕生」でスタートし、〝異常論文〞ブームの火付け役となった柴田勝家の記念碑的異常論文「クランツマンの秘仏」を経て、ある論文(学会発表)を核とする柞刈湯葉「人間たちの話」が、地球外生命探査について(あるいは、小説とは何かについて)根源的な疑問をつきつける。
 ベテラン牧野修の凄絶なホラー・アクション「馬鹿な奴から死んでいく」に対するは、斜線堂有紀の特殊設定ミステリ「本の背骨が最後に残る」の鮮やかなロジックとどんでん返し。復活した《異形コレクション》から選んだこの二篇に続いて、三方行成が正しくきちんと「どんでんを返却する」かと思えば、伴名練「全てのアイドルが老いない世界」は、アイドルがふつうの人類とは異なる種属であるような世界線を舞台に昭和と令和を接続し、女性アイドルの未来を描き出す。
 勝山海百合「あれは真珠というものかしら」は、語り手が楽しい学校生活を経て仕事に就くまでを切なく描き、どこがどうSFなのか編者にも説明できない(にもかかわらず二〇二〇年を代表するSF短編の名作だと確信している)。続く麦原遼の近未来SFは、つらい〝労働〞が楽しい〝朗働〞になった社会において「それでもわたしは永遠に働きたい」と願い、藤野可織
は「いつかたったひとつの最高のかばんで」旅立つことを夢見る女性従業員に共感し、そして最後は、SF作家歴五十年を超える堀晃の「循環」が、水の都を歩きながら、半世紀におよぶ〝会社〞とのつきあいを半自伝的に(SF史を重ねるようにして)回顧する。
 以上十一篇が、編者の選んだ二〇二〇年のベストSF。前巻と同じく、作品の長さや短編集収録の有無などの事情は斟酌せず、大森がSFとしてすぐれていると思ったものだけを収録させていただいた。二度とないベストイレブンの競演を楽しんでいただければさいわいです。
大森 望
 

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