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怪奇事件を占いで読み解く「幽木武彦の算命学で怪を斬る!」~カニバリストの底知れぬ闇、パリ人肉事件(前編)


算命学とは、古代中国で生まれ、王家秘伝の軍略として伝承されてきた占術。恐ろしいほどの的中率をもつその占いは、生年月日から導く命式で霊感の有無、時には寿命までわかってしまうという。

本企画は、算命学の占い師・幽木武彦が怪奇な事件・事象・人物を宿命という観点から読み解いていこうという試みである。

今回取り扱うのは、40年前にただならぬ衝撃を走らせたあのカニバリズム事件である。

 久しぶりに「動く佐川一政」を見た。
『カニバ パリ人肉事件38年目の真実』というドキュメンタリー。
 2017年製作のフランス・アメリカ合作映画で、フランスの撮影チームが2015年の約一か月間、佐川に密着して撮影したという触れこみだった。

佐川一政はだいぶ高齢となっていた。
「動く佐川一政」と書いたが、基本的にほとんど動かない。2013年に病気で倒れて以来、歩行は困難とかで、実弟である佐川純氏に介護をされて日々を過ごしているという。

 カメラはそんな佐川の一挙一動を淡々と追う。
 ただただ、淡々と。
 ピンボケすらも意に介さないドアップ映像。
 長い沈黙。
 戸外から届く街の喧騒。
 長い沈黙。
 滲みだす、虚無。
 ようやくポツリ、ポツリと佐川が話す。

「カニバリズムっていうのは、とてもフェティッシュな願望によるものだと思います。好きな人の唇をなめたいとか、そういうような原始的な欲求に基づいてると思います。その延長線上にカニバリズムがあると思います」

 映画はいっさい、この人物がなにものであるかを説明しない。
 いっさい、である。
 はっきり言って、予備知識なしに映画を見る人(たとえば若い観客など)にとっては、わけの分からない、罰ゲームのような時間が延々とつづく。

 ドキュメンタリーというよりは、アートフィルムに思えた。
 人間が足を踏みいれてはいけない領域に足を踏みいれてこの世に帰還し、今も生きつづける一人の男。
 カメラは、もはや自力では思うように動けなくなった稀代のカニバリストを淡々と映しつづけることで、私たちになにを問いかけようとしたのだろう。

 そう。
 佐川一政はカニバリストだ。

 衝撃的な事件が起きたのは、1981年6月11日。パリに留学中だった佐川は友人のオランダ人女性を射殺して、その遺体を食べた。
 戦慄すべきこの事件に当時の日本は震撼し、佐川は一躍「時の人」になった。
 佐川自身、事件に材をとった実録小説『霧の中』をはじめとしたさまざまな本を出版して作家業へと進出し、劇団状況劇場を率いて1960年代、1970年代の演劇シーンに一時代を築いた演出家、劇作家の唐十郎は、佐川との手紙のやりとりに端を発したイマジネーション豊かな小説『佐川くんからの手紙』で第88回芥川賞を受賞した。
 2022年に結成60年を迎える「生きるレジェンド」=英国のロックバンド、ローリングストーンズも、佐川の事件に触発された「Too Much Blood」という曲を1983年に発表している(佐川が起こした猟奇事件の一部始終に、歌詞はしっかりと触れている)。

 とにかくいろいろな意味で、佐川は世間を震えあがらせ、引っかき回した。
 文字どおり「事件」だった。
 当時の彼は32歳。
 虚無感あふれる顔つきが印象的だったが、老いたとはいえ映画『カニバ』でもそれは変わっていない。

 そんな「パリ人肉事件」から、早くも40年(2021年現在)
 佐川一政とは、いったいどんな人物だったのか。
 算命学で彼の宿命を見た占い師は、こう説明することになる。

「じつは、佐川一政は『食局』なんです」

 は?

 食局?

 カニバリストの佐川が「食」局!?

 多くの人が、そう思うことだろう。
 私も思った。
 今回も算命学という不気味な占いは、薄気味悪い異界の闇を、佐川という男の背後に見せてくれる。

佐川一政の宿命

 いつものようにまず命式(生年月日を干支に直したもの。右から年干支、月干支、日干支で、佐川自身は日干「丙」である)から始めたが、今回注目してもらいたいのは、彼の人体図だ。
 人体図は、命式から作られる。その人の性格的特徴や、才能の傾向などを見るときに使うものである。

そして、佐川の人体図はこうなる。

注目してほしいのは「十大主星」(「天●星」以外の5つの星)だ。

 鳳閣星が3つに、調舒星が2つ
 だからなに、と言われてしまいそうだが、じつは鳳閣星と調舒星は同じ五行(木火土金水)で、どちらも「火性」。「火性」の陽と陰なのである。

ちなみに、いい機会なので十大主星を整理すると、

・福(木性) 貫索星、石門星  守備本能
・寿(火性) 鳳閣星、調舒星  表現、伝達本能
・禄(土性) 禄存星、司禄星  魅力本能
・官(金性) 車騎星、牽牛星  攻撃本能
・印(水性) 龍高星、玉堂星  習得本能

すべての星には背後に五行があり、五徳(福寿禄官印:人間に与えられた、五つの幸せポイント)にも分けられる。
 そしてたとえば鳳閣星、調舒星なら、表現や伝達行為にとても適性を持つ星であり(アート的なことをする際、とても力を発揮してくれる)、五徳的分類でいうなら「寿(生命の営み、健康)」をつかさどる。

また、たとえば禄存星、司禄星なら魅力本能の星なので「愛されたい!」という本能がとても強くなるし(ある意味、芸能人などに向いている。もちろんこれらを持っているから誰もが芸能人になれるわけではないが「みんな、私を見て。私を愛して」という強烈なナルシシズムは、好んで人前に立とうとする人間には必須の能力であろう)、五徳で言うと「禄(財)」をつかさどる。お金と縁のある星である。

――といったように、十大主星はいずれもグループに分けられ、同じグループに属する二つの星は陽と陰、兄弟姉妹みたいなものだ。

それを前提に、もう一度佐川一政の人体図を見てもらおう。

 すべてが鳳閣星と調舒星(ちなみに、こういう人体図は「激レア」である)。
 十大主星が表現、伝達本能の星ばかりであり、五徳で言うならすべてが「寿(生命の営み、健康)」の星ばかりということになる。

 こういう人体図を「食局」という。
 より正確に言うと、

◎八相局

・劫局(木局) 十大主星のすべてが貫索星か石門星
・食局(火局) 十大主星のすべてが鳳閣星か調舒星
・財局(土局) 十大主星のすべてが禄存星か司禄星
・官局(金局) 十大主星のすべてが車騎星か牽牛星
・印局(水局) 十大主星のすべてが龍高星か玉堂星

ということになるのだが、つまり佐川は、八相局の中のひとつである食局に該当する人体図なのだ。

 では食局とは、なぜゆえ食局なのか。
 じつはこの名前は「一生食べるのに困らない」という強い宿命的特徴を持つために、そう呼ばれている。
 別に佐川がカニバリストだから食局というわけではないのである。
 だが「佐川一政は食局」だなんて、偶然にしてはできすぎと言えるほど気持ち悪い。
 そうお思いにならないだろうか。たとえ、食局にカニバリズム云々という意味合いなどないとしてもである。

 ちなみに、食局に入局した人は、ほかに以下のような特徴を持つ(一部、八相局の特徴も含む)。

①とても知能が高くなる(算命学の中でもっとも頭のよい宿命のひとつと考えられている)
②見事なほどの探究心を持つようになる
③運勢がとてもよくなる人ととても悪くなる人の両極端(父親の影響が強いとよい方向、母親だと悪い方向となる。もしかして、佐川にとっては母親の影響が強かったのだろうか)
④海外と縁が深く、海外の方が成功しやすい
⑤日本人であっても日本人的ではない
⑥国際結婚に向く
⑦純粋性に欠けるきらいがあり、情の深いところはあるが、性格に裏表が出る

 ……どうだろう?
 興味がおありのかたはぜひ文献などで佐川一政に当たられ、どこまで算命学の見立てが当たっているか、チェックしていただきたい。
 私としては、ちょっとゾッとくる部分もあったが……。

 なお、ついでに言うと――。

 佐川の人体図に3つもある鳳閣星というのは、ズバリ「グルメの星」である。
 しかもなおかつ鳳閣星は「スケベの星」とも考えられている。

 グルメ。
 スケベ。

 こんな星を人体図にたくさん持つ男(しつこいようだが、調舒星もまた、鳳閣星とは陰陽の関係)が屍姦をともなう人肉事件を起こしたというのは、やはりちょっとできすぎだと思うが、みなさんはどんな思いを抱くだろう。

 なお、佐川一政は食局以外にも、算命学的に言うと「すごい宿命」をあれもこれもと持っている。

 次回後編は、そんな佐川の食局以外の特徴と、パリ人肉事件が発生した1981年の彼の運勢について迫ってみたい。

☞後編へ続く

参考資料:
書籍『霧の中/佐川一政』(彩流社)
書籍『生きていてすみません/佐川一政』(北宋社)
書籍『カニバの弟/佐川純』(東京キララ社)
映画『カニバ パリ人肉事件38年目の真実/ルーシァン・キャステーヌ=テイラー&ヴェレナ・パラヴェル監督』(フランス・アメリカ合作)

(ご注意)
本連載は実際に起きた犯罪事件を扱っており、様々な命式や人体図が出てきますが、それらの命式や人体図を持つ人がすなわち犯罪傾向にあるという意味では全くございません。持って生まれた宿命以上に取り巻く環境が重要であり、運勢は流動的なものです。逆にどんなに立派な宿命を持って生まれたとしても環境が悪ければ宿命は歪んでしまいます。持って生まれた宿命を生かすも殺すもその人次第(環境、生き方)であり、運命は変えられることを教えてくれるのもまた算命学であります。宿命から危機と傾向を知り、よりよく生きるための占術と捉えていただければ幸いです。

著者プロフィール

幽木武彦 Takehiko  Yuuki

占術家、怪異蒐集家。算命学、九星気学などを使い、広大なネットのあちこちに占い師として出没。朝から夜中まで占い漬けになりつつ、お客様など、怖い話と縁が深そうな語り部を発掘しては奇妙な怪談に耳を傾ける日々を送る。トラウマ的な恐怖体験は23歳の冬。ある朝起きたら難病患者になっており、24時間で全身が麻痺して絶命しそうになったこと。退院までに、怖い病院で一年半を費やすホラーな青春を送る。中の人、結城武彦が運営しているのは「結城武彦/幽木武彦公式サイト」。












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