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テレビの仕事〜本当の地獄は、まだ先の先

 翌朝、4:30に起きてチェックアウトの準備をして、少し時間があったのでベッドに寝転がったのが危なかった。あるあるだけど、ハッと目が覚めたら6:00。死ぬかと思った。猛ダッシュでチェックアウトをして博多駅に走った。
 危機一髪で6:30のこだま号に乗り、ここから各駅で駅弁を買って帰るという任務がスタートする。こだま号の一番後ろの席。博多駅でお弁当を既に6個購入している。ひとつ目の任務完了。
 こだま号出発、行き先は新大阪。新大阪で乗り換えて再びこだま号で東京へ向かう。東京着は、15:30辺りだった気がする。
 果たして、何個のお弁当になるのか予想だにつかない。というか、いろんな意味で考える余裕がない。
 小倉、新下関、厚狭、新山口、徳山、新岩国と着々と駅を重ね、弁当も増えていく。順調だ。
 新山口あたりで、そのこだま号の車掌さんに話しかけられた。
 「何やってんの?」
 「はい?」
 「さっきからお弁当買いまくってるよね?」
 「はい」
 明らかに不審そう。一人の若者が駅に着くたびにダッシュして弁当買って帰ってくる光景を各駅で見ていれば、気になる。
 「はい、フジテレビの番組で駅弁特集をやるので、買って帰ってる最中なんです。」
 「え?ひと駅ずつ?」
 「はい」 
 「そうなの?乗り遅れたらどうするの?」
 「絶対に乗り遅れられません!」
 「そうなんだね。わかった」
 今では考えられない話だが、そこから先、車掌さんは僕が乗り込むまで扉を閉めるのを待ってくれた。とはいえ、ダッシュは変わりませんでしたけどね。
 新大阪駅に着いたのは、昼くらい。新大阪駅では、乗り換えがあるので、お弁当屋さんに電話でお願いしておいて、お弁当を到着ホームまで届けれもらう約束をしていました。(『全部そうしておけばよかったじゃん』って思いますよね?時間がなかったんです)
 駅のホームに着くと
 「フジテレビの中村さん?」
 白衣を着た男性が3人待っていてくれました。
 「何!?この段ボール」
 「これですか?(4箱のデカい段ボール)全部駅弁です」
 「一人で?」
 そこへ車掌さんが会話に参戦。
 「この子さあ、一人で全駅の弁当を買ってるんだよ。本当は持ち切れる荷物っていうのが新幹線のルールなんだけど、何もいえなくなっちゃってさ」
 「すいません。ありがとうございました。僕が乗るまで待っててくれたんです、車掌さん。」
 「時間内だったから待ったんだよ」
 「無茶しますなあ、この子」
 全員で大爆笑。
 確かに今考えれば、めちゃくちゃな話だ。
 それからお弁当屋さんは台車を持ってきてくれて、事務所に連れて行ってくれた挙句にご飯も食べさせてくれた。あのお弁当の味は忘れない。

 新大阪の駅のホームでお弁当屋さんとは別れを告げ、いよいよ東京へ向かう最終決戦。とはいえ、ここから先は全部電話も済んでいて、新幹線が到着する時間と号車を伝えていあって、お弁当屋さんが持ってきてくれる手筈になっていた。
 しかも、次の新幹線の車掌さんにご迷惑をかけますと伝えたところ、
 「聞いてるよ!新大阪で聞いたよ」
 新大阪までの車掌さんがわざわざ伝えてくれていたのだ。

 東京まで事件がなかったのかといえば、なかったわけではないが今回のミッションはほぼコンプリートして15:00あたりに東京駅に到着。
 予定では、そこにスタッフが待っていてくれてるはずだったのだがいない。デカい段ボール7箱と当時携帯もないし、電話をしにいくわけにもいかないので、邪魔にならないところに段ボールを移動させて待った。
 待つこと1時間。やっとスタッフが2人で迎えにきてくれた。
 「うわっ!なにこの量!!」
 「全部、お前が持ってきたの?」
 「はい」
 「本当に?」
 「さすが、渡辺班」
 その時は、全く意味がわからなかった。
 「よし帰ろう!」
 先輩が言うので従う。

 そのあと、フジテレビの番組スタッフルームに帰るまでの間、タクシーの中で寝ていたわけではないのだが、全く記憶がない。

 この日、生番組の初放送まであと二日。
 ここからとんでもない地獄が始まる。
 

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