見出し画像

テレビの仕事〜初日は、まだ続く。。。

 違ったらいけないと思って、ネットで調べたら本のタイトルが「大山のぶ代のおもしろ酒肴」でした。

 さあ、前回の続き。そうです。渡辺Dの一言、大山のぶ代さんの本を買ってこいというミッション。正直、「なんだろこの世界」、「違うので良くない??」、「しんど」ってずーっと思ってましたその時は。
 昼の12 時でした。地獄の始まりは。。。
 会社を飛び出したわけですよ、フジテレビ下通りを目指して。ビルの入口を出た瞬間、我に帰って「あれ?フジテレビ下通りってどこよ???」。
 次の瞬間、いろいろ考えたんです。
1.戻って聞き直す?
2.このまま飛び出していって人に聞く?
3.外から電話する?
思いついたのはこの3択。冷静に3はない。電話番号がわからん。1は、すごい飛び出した手前戻りづらいのと小さな変な意味のないプライドが邪魔をする。結局2を選択し、勘で左に走り出す。(曙橋に近い靖国通り沿いですw)大して足は早くないですが。キョロキョロしながら走っていると、向かい側に商店街っぽい感じ。渡って見て、商店街の人たちに聞いて探そうってことにしました。
 信号を渡って、商店街らしき通りへ。商店街の入り口付近で店前を掃除しているおばあちゃんんがいたので、尋ねる。
 「すいません。フジテレビ下通りってどこかご存知ですか?」
 そのおばあちゃんは、かなり必死な顔をしている僕を見て、ほんの少し笑みを浮かべました。おばあちゃんは、上を指差して
 「ここだよ。」
 「え?」
 「ここ」
 上を見上げると、フジテレビ下通りとかいたアーチがかかってました。
 「どこへ行きたいの?」
 「あ、本屋さん探してまして」
 「そこ。あんたの目の前」
 いい人に会えたのと、本屋さんの前にたどり着いたので、一気に緊張が緩みました。
 「ありがとうございます!」
 「頑張って!いつか食べにおいで」
 秋田風居酒屋さんのおかみさんで、この数ヶ月後にいくことになります。
 「ありがとうございます」
 再びダッシュで本屋さんに。と、言っても10歩くらいでしたけど。本屋さんに飛び込んだ僕は、一目散にレジに。
 「すいません。大山のぶ代のおもしろ酒肴ってありますか?」
 「少々お待ちください」
 10分くらい待ってたんですが、帰ってこなかったので、店員さんの元へ。
 「ありそうです?」
 「すいません。ちょっとないみたいです。」
 「ありがとうございます。」
 再びダッシュで会社に戻り、浜谷CADに報告。
 「ありませんでした。」
 「あそう。渡辺さんに報告してきて。」
 「はい。」
 ダッシュで渡辺Dのところに。
 「お疲れ様です。渡辺さん。」
 「何?」
 今思えば、あの時渡辺さんは、1回目の放送の台本を書いていたんだと、今あの光景を思い浮かべればわかりますが、当時はディレクターがなにしてるかなんて全くわかりませんでした。
 「あの、本なんですけど」
 「なんの?」
 「大山のぶ代さんの・・・」
何も言わずに、後ろ手に手を出してきた渡辺D。
 「すいません。ありませんでした。」
 「え?」
 「ありませ・・・」
 僕の言葉を遮って、
 「(かなり語気荒め)はあ?なんで帰ってきたの?」
 「なかったんで・・・」
 「探してこいよ!必要だから、買ってきてって言ってんの」
 「は・・・い・・」
 「早く!行ってこい!!」
 「はい!」
 またダッシュで、浜谷CADのところへ。
 「浜谷さん、めっちゃ怒られました」
 「あそう。じゃあ探すしかねえな」
 俺、生贄だったんだ。
 「どうやって探せばいいですか??」
 馬鹿すぎますよね、この質問は。
 「本屋さんは、東京都内に死ぬほどあるから。電話して。」
 「はい。」
 当時は、神保町なんて便利なところがあるなんて1ミリも知らなかったので、電話帳で本屋を探し、電話しまくりました。何軒かけてもその本ないんですよ。もう、30軒以上かけたんですけど、ないんだこれが。この作業3時間やってたんです。
 そして夕方、16時30分。昼飯抜き。
 浜谷CADが、立ち上がりました。出版社に直接連絡してみろという。出版社?どこから出てるかわかんない・・・。何で調べればいいの?当時は、インターネットってなかったんです。本屋に電話して出版社聞く奴いないですよね、あんまり。変な感じで対応してくれたんです、いい人だったんだなあって、今思います。
主婦の友社に電話して、在庫があるか聞いたんですが、なくて、仕舞いには出版社の倉庫へ行く羽目になることに。
 しかし、救いの神がいたんです。浜谷CADの同僚で、同じCADさんが、浜谷CADに教えてくれたんです。
 「浜谷〜。六本木に料理本専門店があるから、そこ行かせてみれば」
 「そう!サンキュ。」
 浜谷CADは、意気揚々と僕のところに。一軒だけ料理の本ばかり売ってるところが六本木にあるから行ってみろと。あってもなくても、結果がわかったりすぐに会社に電話をしなさいという指示。
 「いけ!」
 「はい!!!」
 ダッシュで、六本木に向かいました。僕にはまた苦行が。。。
 生まれて初めての六本木。右も左もわかんない。でも、いろんな人に聞きまくって、やっとのことでお店を見つけ、本の名前をお店の人に伝えました。
 「大山のぶ代のおもしろ酒肴」を探して6時間。長かった。初日から辞めてやろうかと思った。汗だく。もう無理。いろんな想いが頭の中を駆け巡る。そして店員さんは僕のところに、白い本を一冊持ってやってきた。
 「一冊ございました」
 やった〜!愛してる!人生最良の時!っていうくらい嬉しかった。あの時の気持ちは、今でも忘れない。
 浜谷CADに電話をする。
 呼び出し音。
 「はい。(今は亡き制作会社名)です。」
 「中村と申しますが、浜谷さんお願いします。」
 「お疲れ?どうだった?」
 「ありました」
 「OK!すぐ帰ってきて」
 「はい」
 今、思い返せば、会社への帰り道を何一つ記憶していない。大切に大切に「大山のぶ代のおもしろ酒肴」を抱きしめていた。
 あとになっていろいろ思い返す。と、学んだ1日だったんだなあと。渡辺Dのあの言葉は、今も忘れてない。
 創る事へのこだわり。必要なものを簡単に諦めてはいけない。自分の大切だと思うことを簡単に変えてはいけない。

 ・・・でも、当時はたかだか本一冊にこんなにこだわりやがって。ぶっ飛ばしてやろうかと思った。

 会社に帰って、本を浜谷CADに渡そうとすると、
 「渡辺さんに渡してきて。」
 「はい。」
 渡辺Dのところへ向かう時の感情は全く覚えていない。
 「すいません。遅くなりました、渡辺さん」
 「何?」
 「あの、本です。」
 初めて振り返って、僕の顔を見てくれた。
 「ありがと。浜谷のところに行って」
 「はい。」
 浜谷CADのところに行き、
 「浜谷さん、渡辺さんが浜谷さんのところに行けと言ってました。(まだ帰れないのかなあ??)[僕の心の声]」
 「ん?あ、そうそう。これ」
 浜谷CADは、僕にチケットらしきものを渡す。
 なんだろうと思い、見つめていると、
 「いいなあ、お前。明日一人で福岡だって!」
 浜谷CADの気持ちを当時はわからなかったが、追々理解した。
楽しい時間があることを。でも!でも、この時の僕にはなんのことやら意味がわからない。
 「よく聞け、中村。お前は明日夕方の新幹線で福岡に行くの。ホテルはここ。ここに泊まって、翌朝6時の新幹線こだまに乗って、まず新大阪まで。それから乗り換えて、東京まで帰ってくるの。わかった?」
 「はい。」
 としか、言いようがない。
 「で、お前のミッション。こだまで各駅に止まるだろ?その各駅で話題の駅弁を全駅買ってきて。」
 「はい。(てか、初日のADに頼む仕事か?)」
 「何か質問は?」
 山ほどあるよ!どうすればいいの?わかんないよ!と思っていると・・・。
 「てことは、お前は今から東海道新幹線沿いの駅に納品してる弁当屋さんに電話して、弁当を何時の新幹線に乗ってるので、届けて欲しい、というお願いをして。弁当屋さんは、この本に載ってるから。」
 「はい。(はあ?俺がするの?どこの馬の骨だかわからん俺のことを弁当屋さんが信じるわけないでしょ)」
 「で、電話するときに『フジテレビのおいしいフライパン』と申します。お世話になっております。っていうの。言ってみ。」
 「『フジテレビのおいしいフライパン』と申します。お世話になっております。」
 「うまい!」
 「それでお願いしていけば、了解してくれるから。」
 「(本当かよ!)はい。」
 「じゃあ、やって」
 長い1日は、まだまだ終わらない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?