シリーズ「想い」/2005年発表より
「むかし、彼に告白されたわ」
金門橋を望む芝生の上、彼女は切り出した。短い沈黙の後、僕は応えた。
「みんな君が好きだった。彼だけじゃなく僕も、他の奴等も」
僕たちは小さな町に育った。夏は田畑と青空が鮮やかな対照を成し、冬は灰色の空と雪が諧調を綴る黒白の景色。それが僕達の全てであり、他には何も無かった。
数日前、大陸の東岸が惨禍に包まれた。
「いまの私には何もないわ。ただ、ここにいるだけ」
翌朝、北へ向かう僕を彼女は見送ってくれた。バスが発つまで何度か視線を合わせた