小さく売って、大きく育てる ヒョンデの狙いは「日本の中古ユーザー」
韓国から新しい車がやってきた。
ヒュンダイあらためヒョンデは、日本で何台売れるだろう?どう強く見積もっても、年間5百台も出れば御の字ではないだろうか?
年間5百台。この数を聞いた時、鼻で笑う日本車メーカー関係者は少なくないと思う。ああ、我々の敵ではないな、と。
今回はそんなヒョンデがどうやって日本で戦うつもりなのか。独断と偏見で書いてみる。
日本でいきなり何千台も売れないのは、彼らが一番わかっている
だが考えてみて欲しい。いくら韓国の会社といえど、日本の現地法人で働くのは日本人だ。その大半は日系自動車メーカーや大手インポーターの出身者だろう。また遠い異国ではなく隣国であれば、本国層もある程度理解がある。
「日本で売れるのは、まずは5百台だ」というのは彼らが一番わかっているだろう。
そういう前提に立った時、彼らはどのようにビジネスモデルを組むだろう?まず何をするだろう?
なぜ「ヒュンダイ」ではなく「ヒョンデ」に変えた?
これは単純だ。Google検索で「ヒュンダイ」と「ヒョンデ」を入れてみた時、予測ワードに並ぶ言葉でわかる。
「ヒュンダイ」では連想ワードに「やばい」「売れない」などのネガティブなワードが並ぶ。一方で「ヒョンデ」だと「原宿」「iqonic5」「価格」という一般的なワードが挙がってくる。
後述する「オンライン販売」を行う上で、まずハンデを帳消しにするためにはこれは必ず行うべき行動である。
ヒョンデの狙う層は「中古ユーザー」「20〜30代」
さて、ここからは販売戦略に移る。
彼らは「国産が!EVが!」と頭の固まった老人組は相手にしていないだろう。そんな太古の日本人はレクサスやメルセデスがしっかりと囲い込んでいる。
ではどこを狙うか?若年層だろう。どんな会社であれ、ビジネスを拡大しようとした際にはまず、長期的に利用してくれるユーザーを狙うだろう。そういったとき若年層を狙うのは自然な理屈のはずだ。
「若者の車離れ」はどうしたって?それはこの後話そう。
中古車購入層のメインは20〜30代、250万円以下でほぼ大半を占める。
リクルート社が毎年発表している「カーセンサー中古車購入実態調査」ではここ数年上記のように、中古車の購入は20〜30代がメインとなっている。40代以上がメインとなる新車購入とは対照的だ。
車両単価平均では20歳代162.9万円、30歳代181.4万円。ローン年数は書かれていないが、3〜5年でのローンが一般的ではないだろうか。
この価格レンジを新車に当てはめた場合、残価設定ローンならば車両価格350〜500万円程度ならば月々の支払額も大きくは変わらない。もうちょっと背伸びすれば一定水準の新車に乗れる…という魅力で、この若手ユーザー層を狙うことは筋は通るだろう。
中古車を購入する層に、お店はどうでもいい
クルマが好きな人なら、社会人になって一度は中古車サイトを眺めて車を探したことはないだろうか。目当ての車を探す時、自分の住む町内だけではなく近隣県程度ならスコープに入れる人も少なくはない。
そういう場合、買ったお店には二度と来店しないだろう。整備も近所のお店に出すだろうからだ。
また新車セールスのような強い売り込みを嫌う層も一定数いる。余計なセールスは要らないから、車だけ買って終わりにしたい。そういう理由で中古車を選ぶ人間も一定数いるように思う。
「お店」を無くしても安くならない?
よく言われる「販売店を無くせば、クルマの値段は下がる」というのは間違いである。彼ら販売会社の半数以上はメーカーとは独立した資本であり、言い方を変えれば「1台数万円の手数料で、メーカーから車を買うお客様」だからだ。
これは携帯電話がいい例だろう。モデルチェンジ末期になると1円携帯と言って売り捌きまくる。もしメーカー直営だったらこんなことはしない。製造台数を絞り込んで価格を維持するはずだ。
逆に言えば、販売会社が一定数を必ず引き取ってくれるからこそ、メーカーは「作っただけ売れる」環境になっている。販売会社は引き取ったからには売らないと保管費や次の在庫が増えるばかりである。なので叩き売る。だからお客さんは安く買える。それだけのことだ。
メーカーにとってのオンライン販売のメリットとは?
先の章でお店を無くしても価格は下がらないと言った。しかしこれをメーカーの立場で見ると、販売台数の損益分岐点を下げることはできる。特に輸入車にとっては切実だろう。
例えば日本のルノーは数年前まで年間4000台程度の販売台数だった。今でこそ8千台弱を売るが、それでも販売店の数は50程度で各都道府県に1つ。これで採算が成り立っていた(はず)である。逆にこれより台数が少ない輸入ブランドでは、全都道府県に販売店を置くのは難しいだろう。
逆に言えば、4000台未満の販売台数でも、全国で車を売るには、オンライン販売などの飛び道具が必要になってくる。整備点検費用という旨みの大きいビジネスは当面、全国展開するオートバックスと提携するなどして渡してしまう。台数が増えるまで、自前で整備拠点への投資も少なくて済むメリットが勝るからだ。
そもそも売れるだけのクルマなのか?
さてここまで理屈の上で長々と話してみたが、そもそもヒョンデは売れるクルマなのか?2019年に私がソウルでヒュンダイモーターのギャラリーを訪問した際の記事を紹介する。
2022現在でヒュンダイは世界トップ5に入る自動車メーカー連合である。日本で対等に戦っているのはトヨタとルノー日産くらいであり、すでにホンダすら上回っている。
車なんて所詮は「走る・曲がる・止まる」なのだ。あとは法規制とユーザーメリットに即した環境仕様があればいい。ドラえもんがどこでもドアや空飛ぶ絨毯を持って来ない限り、トヨタがAppleに置き換わっても、クルマはクルマのままである。
まとめ
小さく売って、大きく育てる。これが彼らの狙いだろう。そこまでビジネスを継続するために、少ない販売台数で採算を成立たせる戦い方をしている。まとめると下記の通りだ。
それより何より、アウェイの土地で長期戦を挑めるだけの体力と判断が羨ましい。それだけ会社がアグレッシブなのだ。
個人的には、新しいビジネスモデルを日本に根付かせるために働くことはとても楽しい気がする。ユーザーに選ばれる以上、それだけのメリットを提供できているという証なのだ。
米国で生まれ、中国やタイの材料で作られたマクドナルドやスターバックスを口にするとき、大和魂で拒否する人なんて見たことがないだろう。
利のない国粋主義なんて、作り手の奢りだ。
頂いたご厚意は、今後の撮影・取材に活用させて頂きます。 どうぞよろしくお願いいたします。