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③ 甦れ、俺の青い鳥

市場やバジェット、締め切り逆算で脅迫しだす逆算思考。

これがチーム脳が派遣してくるニコニコツアーガイドの本性だ。
請け仕事が長いと逆算思考が発達する。してしまう。
どんなにイヤでも向いてなくてもギャラのため次の仕事のためと、いつしか自然と身につきだす。案件振られた瞬間にコストを無意識で弾くようになる。受注後に状況が変わるなんてしょっちゅうだから、そのたびにまたバチバチ弾く。
それ自体はとても良いことで、制作を完成まで漕ぎ着けるにはソロであっても最低限できた方がよい。妄想の不良在庫なら倉庫に溢れている。
完成に導く頼もしいチカラ、良いことづくめに見える逆算思考だが、初手の発想「なに作ろっかなーワクワク」のアイディア出しの段階から勢いよくブン回りだすと───実にやっかいな現象が発生する。

ふっ、と「ここじゃないどこかに行きたい」そんなアンニュイな気持ちが芽生える瞬間は誰しもあると思う。
そこで間髪入れずに「それは何処」「目的は何」「行く必要ある?」「コストは」「スケジュールは」と被せ気味に早口で畳みかけられたとしたら?

繊細な感情は一瞬で吹き飛び、何もかもどうでもいいという乾いた風が心の荒野に吹き荒れる。ああそうだ腹減った飯だ飯。
現実だけがすべてだあーゆーおーけー?ってなりませんか。私はなります。

内発動機、その萌芽を逆算思考が絨毯爆撃。
繊細なお気持ちオーバーキル。よせ、もう死んでる。

そうして粉砕されたココロの残骸を抱え近所のサ店へ這い出しコーヒーを啜りつつ「そういえば……海が見たかったような……そんな気がする……」などと思い出せるなら蘇生可能。それすら不可だと結構ヤバイと思う。

時間(〆切)や予算、道具などなんらかの枠=縛りが、ブツを完成に導く牽引力として機能するのは間違いない。すごく便利。無いとダラダラしちゃう。
でもそれはある程度イメージの土台(=根源的な動機)がしっかり固まってからの話なわけです。芽が出て膨らんで、花が咲いて、そうしてようやくイメージ=実が固まる。
何も作ったことない初心者ならともかくテキトーでいいから作りまくれ話はそれからだで終わる。しかしある程度作ることに慣れてしまうと、この手が使いにくいことがある。
枠(条件)が動機を支配し、時には盛大に歪めてしまうのだ。
野球がしたいヒトを言いくるめてサッカーやらせる感じ。
どうやるかというと、
どちらもスポーツであり球技、身体を限界まで使うなど似た状況を並べ、本質的にスポーツがやりたいはずだ、どちらも勝負の醍醐味はあるだろう?
状況からサッカーを選択する方が最適解だしコスト的にも負担は少なく、さらに手代わりもしやすい——などとゴタクを並べ、ダメ押しはサッカーでなく野球を選ぶのはワガママだし現実的ではない、と脅迫するのだ。
(※露悪的に書いているが、もっとマイルドなやり方で状況とうまく折り合えることもありなかなかめんどい)

沁みついた思考のクセは実に厄介で。
雑にいうとカネしか興味ないコンサルが脳内に居て圧がすごい感じ。
ちょっとしたアイディアひとつにいちいち「それ仕事に生かせる?」みたいに出張ってくる。「ベネフィットは?それスケールするの?」とか。こいつ絶対色黒ツーブロック柄ネク(ry
(誤解の無いよう言い添えるとそういう人が居てくれた方がいいこともままある。なぜなら好きにやれと放置すると採算考えるマンが消息不明になりがちそれがアーティスト<暴論)

逞しく成長したリスクヘッジとバリュー命な脳内コンサルは、キラキラした目で「100%善意♪ もう頑張るしかないさ♪」とこちらを支配しにくる。
やつらはともかく数字で押す。なにせ数字は具体的だ。強い。対するこっちのメインウェポンは主観でお気持ちなのだ。一言でいうと分が悪い。
ヤツをガン無視できるのは、催促の電話/メール/SNSなどを放置して悪びれる素振りもなく素で開き直れるタイプかと思う。困るけど。
アレやられる側になるとどれだけ困るかよくわかる。でも自分には出来る気がしないのでちょっと憧れがある。いや困るけど。
ちなみに脳内コンサルヤ〇ザに悩む作家さんは他でもよく聞く。
一種の職業病かもしれない。対抗するにはどこかで勝負の土俵、勝利条件を変える必要がある。
「好きにやるのが達成目標」
これが今のところ効果的。なお止まらないバリューとリスクヘッジ算出脳には「オマエの出番は今はない」と言い聞かせる。
「今は」止まれ。必要になるまでタスクオフ。強制終了だ。よしやるぞ。

そうして机に向かうことしばし──

ところで「好き」ってなんだっけ?

いきなり解放された奴隷がこれからどうしていいかわからず立ち尽くす気持ち、たぶんコレじゃないかというぐらいには呆然としました。
逆算思考の奴隷と化してた感情「好き」は、気づけば自分ひとりで立てないぐらい弱ってました。


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