公共空間

金融機関がコンダクターシップを発揮すべき”かせぐまちづくり”(民間主導の地方創生)

地域社会の衰退が進む中、“地方創生”という施策は必要です。しかしながら行政主導では限界があります。事実、ほとんどの地方創生事業は形骸化しています。では何が必要か。それは民間主導の地方創生モデルである“かせぐまちづくり”です。そしてそのカギは“金融機関によるコンダクターシップの発揮”が握っています。

なお、スライドはスライドシェアで公開しています。
 https://www.slideshare.net/takeshishibuya/ver20180621

〇“かせぐまちづくり”が必要になっている背景は地方創生の形骸化
地域社会が衰退していることは、もはや説明の必要もないでしょう。少子高齢化と人口流出により地域人口そのものが減り、連鎖的に雇用も市場も縮小して、経済的にも社会的にも維持が困難になっていっています。限界集落のようなことが市町村単位で起き始めているのです。

これに対して2015年に政府はまち・ひと・しごと創生本部を設置し、地方創生を推進してきました。しかしながら実態としては形骸化の連続となっています。

まず最初の施策が人口ビジョンと地方版総合戦略の策定。地域の人口がどのように減ってどんな影響が起きるかを予測し、そこに手を打つための戦略を策定するというもの。確かに正しそうなアプローチ。この策定のための予算が全国の自治体に提供されました。そして結果として、判で押したような似たような戦略が全国各地に生まれました。理由は単純で、東京のコンサルティング会社などに外注して資料をつくってもらったから。最初の政策は表面的に資料作りが上手なコンサルティング会社の肥やしになったわけです。

その後は地方創生先行型交付金や地方創生加速化交付金という国家予算が1000億単位で投入されていきます。そして結局地域でやったことは、概ね地域振興券か、イベントか、映像コンテンツを創る程度。一過性の施策にとどまるものがほとんどでした。さらにこれらの仕切りがやはり東京の企業ということも少なくないという状態。

結論から言って、行政主導での地方創生事業はバラマキ&一時的な施策となり、持続的な地域の課題解決に結びついたケースはごくまれになっています。ちなみにあまり明るみに出ていないのは、やはり関係したコンサルティング会社などん関係者のたまもの。中身のないものをそれっぽくみせることができるのもコンサルティング会社の技能です。かつていたのでようわかります(笑。


〇本来あるべき地方創生の姿は地域経営
政府が出している“まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」「総合戦略」「基本方針」”を踏まえると
 -地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする
 -地方への新しいひとの流れをつくる
 -若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
 -時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する
ということが地方創生の理念です。

間違っていないし、その通りだと思います。もうちょっと意訳・要約すると、
 「自分が住む町で幸せに暮らし続けられるようにする」
ぐらいのものです。極論、それが実現できれば何でもいいのです。

ただし一つだけ絶対に必要なことがあります。それは持続可能であること。国からの支援に頼るのではなく、東京などの大型資本に頼るのではなく、自律した経済圏・社会権として地域が成り立っていることが求められるのです。それは一つの地域を会社と見立て、会社として独立・自律・継続できるようにするぐらいの戦略が必要になります。もちろん、そこにいる一人一人が幸せであれるように。

つまるところ、地方創生=地域経営として捉えると、行政主導は絶対的な限界があるのです。単純にほとんどの行政関係者は経営経験がないこと、そして行政にはバランスシート的な考え方がないことが理由です。単年度の予算を消化する、という発想では持続性は生まれません。長期的な視野に基づいて、人を育て、地域社会を成熟させ、次につないでいくことが不可欠なのです。


〇必要なことは民間主導の“かせぐまちづくり”
“持続可能な地域経営”としての地方創生はどのように実現すればよいでしょうか?実は意外とシンプルです。まず地域をけん引するリーダーとなる事業者の成長にかけること。成長領域に焦点を当てるのは経営の基本です。

次にこのリーダー事業者に対して多様なプロフェッショナルが支援し、適正な報酬を得ること。“ただでやれ”なんて言い出した時点でリーダー事業者ではありません。同時に金融機関が信用力をもって支援すること。これは資金だけでなく、人のつながりや情報木含めての支援です。さらにこのとき、プロフェッショナルと金融機関が足並みをそろえ、リーダ事業者と共にチームになること。そうするとリーダー事業者は飛躍的に成長し得ます。

ただしこの時注意点が一つあります。リーダー事業者もプロフェッショナルも金融機関も、考え方が全く異なるので話がかみ合わず、放っておいてもチームになれないのです。ではどうするかというと、コンダクターシップを発揮できる人財が入って共創的に価値を創っていくことが求められるのです。

リーダー事業者が成長すると地域に提供される商品やサービスの量と質があり、結果的に地域の生活の質が上がります。地域の生活の質が上がれば高齢者・障がい者などの社会参画も進み、さらにリーダー事業者の事業機会が増えます。同時に雇用も増え、所得水準も上げていくことになります。

するとリーダー事業者だけでは賄いきれなくなります。地域の周囲の事業者との協力・連携が必要になり、事業機会が地域全体に拡大します。当然このとき、プロフェッショナルと金融機関が連携して周囲の事業者にも支援をしていきます。するとさらに地域の雇用もふえ、所得も上げていくことができます。

ここまでできると“アレオレ詐欺”というのが出てきます。「あれは俺がやったんだ」と吹聴する人たちです。政治屋さんに多い傾向がありますが、影響力があるのは間違いないので利用させてもらいましょう。どんどん“アレオレ詐欺”でほかの地域に発信してもらいます。するとほかの地域から視察がやってきて、リーダー事業者を中心に地域の事業者とつながり、地域外への事業機会が開けていきます。ちなみに“アレオレ詐欺”な方々は実際には何もしてなかったりするので、実務的な局面になるとそれほど問題なくなります(問題起こす場合は毅然とした態度で対応すれば大丈夫です、中身のない相手なので)。

ここまでくると民間事業で地域経済が回っていく構造ができます。行政主導はなくなり、自律的な経済・社会活動が可能になるのです。ちなみに行政は不要にはなりません。行政には福祉などのセーフティーネットづくりや、教育などの社会基盤を築く制度設計など行政でなければできない本質的な仕事に集中してもらえるようになります。


〇“かせぐまちづくり”の要は金融機関の変革
実際に“かせぐまちづくり”を実践するためには何が必要になるでしょうか。地域をけん引するリーダー事業者はどの地域にもいますし、育てることができます。それを支えるプロフェッショナルは読んでくることができます。金融機関も地域に根付いた組織として存在しています。基本的にはすべての要素がそろっており、その気になれば“かせぐまちづくり”はできるのです。

しかしながら金融機関だけは入れ替えることが本当に難しい。地域に根付いているのもそうですが、往々にして大企業病にかかっており、かつ護送船団で守られてきているため戦略的なアクションが苦手になっています。つまり“かせぐまちづくり”の実践には金融機関の変革が不可欠となります。逆説的に言うと、金融機関としては“かせぐまちづくり”を実践できるまでにならないと、地域と共に衰退し消滅する可能性があります。

つまり、金融機関の再生こそが持続可能な地域経営=地方創生の要であり、日本再生の要となっているわけです。そして金融機関がコンダクターシップを発揮することが最も効果的で効率的な“かせぐまちづくり”の実装モデルのなのです。そんなわけでJPBVなどの金融施策に関わることは大変に困難なチャレンジであったとしても、意義は本当に深いなと感じる今日この頃です。


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